一通りの苗の植え替えを終えて、子供たちは帰っていく。
「お兄さん、プロポーズがんばってね!」
「結果教えてね!」
女の子たちはキャアキャアとはしゃぎながら走って行った。
……元気だなあ。なんだか自分がおっさんになったみたいだ。まだ二十代だし、お兄さんでいたいんだけどなあ……。
地面にこぼれた土を掃き、残ったポットやカゴを片付けた。
市の園芸サークルの人たちと花壇を見回り、問題がないことを確認して解散となった。
「お疲れさま。うちに戻ろうか」
朝一番で花音ちゃんがうちに来て、花屋の制服――白いシャツに黒いスラックスとエプロンに着替えてもらった。
それからうちの車で、公園まで苗を運んできた。
だからイベントが終わったら、一度うちに戻らないといけない。
……いつか、花音ちゃんに言いたいな。「うちに帰ろう」って。
ふと、さっきの女の子たちの言葉が頭をよぎる。
――「じゃあじゃあ告白とかするの?」
思わず花音ちゃんの顔を覗き込んだ。
「……どうかしましたか?」
「いや……なんでもない。車に戻ろう」
荷物を全部まとめて、車へと戻る。
昼飯を食べてから帰ってもいいかもしれない。
「花音ちゃん、よかったら昼ごはん、一緒に食べない?」
「はい!ぜひ!」
「何がいいかな。海際のカフェか、家に向かう途中のファミレスとかか……」
「今から移動すると混んでるかもですから、カフェ行きませんか?」
「そうしよっか」
また車から降りて海の方に歩く。
公園内には芝生広場があって、海沿いにはキャンプ場やバーベキュー場も並んでいる。
それらを抜けた先は海水浴場になっていて、海の家代わりのカフェがある。
夏場で混んではいるけど、広い場所だから席にはまだ余裕がある。
席を確保して、カウンターへ注文しに行く。
「何食べようかな。藤乃さんどれにしますか?」
「何がいいかな。カレー食べたいけど、制服にこぼしたら嫌だしな」
「紙エプロンありますよ」
「じゃあカレーにする。この夏季限定スパイスカレー、気になってたんだ。花音ちゃんは?」
「んー、あ、パスタにします。レモンとバジルとトマト……おいしそう!」
それぞれ受け取って席に戻る。
向かいに座る花音ちゃんが、嬉しそうにパスタを頬張っていて、それだけで胸がいっぱいになる。
「藤乃さん、食べないんですか?」
「……食べるけど、花音ちゃんがかわいくて、それだけでお腹いっぱい」
「もー、またそういうこと言う。そういえば、藤乃さんも子どもの頃、セミの抜け殻集めたり、女の子にあげたりしてたんですか?」
「あんまりかな。瑞希は虫カゴいっぱいに集めてたけど。俺は雑草集めてた」
「……二人とも、イメージ通りです」
花音ちゃんがふふっと笑う。
「それに、俺はそういう“宝物”をあげたい相手もいなかったし。そういう意味では、花音ちゃんが初めてかも。自分で集めたものを、ちゃんと誰かに渡したのって」
「そうなんですか……? その、葵さんにも?」
確かに葵にはブーケやアレンジ、リースなんかをたくさん渡してきたけど、どれも試作だったり練習用だったりで――結局、余り物を欲しがったから渡してただけな気がする。
「ないなあ。欲しがられたら渡してたけど……。たぶん、自分からあげたいって思ったのは、花音ちゃんにあげたシャクヤクだけかも」
「……そっか。そうなんですね。あ、藤乃さん、そのカレー、辛いですか?」
「ちょっと、ピリピリするくらい。食べる?」
「ください!」
一口分すくってスプーンを差し出すと、花音ちゃんはためらいもなく口に運んだ。
……この娘は、俺のことどう思っているんだろう。
もし告白して、「付き合ってほしい」って伝えたら、頷いてくれるんだろうか。
それとも、困った顔になってしまうのだろうか。
こんなやりとりすらできなくなったら……つらい。考えただけで、胸が苦しくなる。
「お兄さん、プロポーズがんばってね!」
「結果教えてね!」
女の子たちはキャアキャアとはしゃぎながら走って行った。
……元気だなあ。なんだか自分がおっさんになったみたいだ。まだ二十代だし、お兄さんでいたいんだけどなあ……。
地面にこぼれた土を掃き、残ったポットやカゴを片付けた。
市の園芸サークルの人たちと花壇を見回り、問題がないことを確認して解散となった。
「お疲れさま。うちに戻ろうか」
朝一番で花音ちゃんがうちに来て、花屋の制服――白いシャツに黒いスラックスとエプロンに着替えてもらった。
それからうちの車で、公園まで苗を運んできた。
だからイベントが終わったら、一度うちに戻らないといけない。
……いつか、花音ちゃんに言いたいな。「うちに帰ろう」って。
ふと、さっきの女の子たちの言葉が頭をよぎる。
――「じゃあじゃあ告白とかするの?」
思わず花音ちゃんの顔を覗き込んだ。
「……どうかしましたか?」
「いや……なんでもない。車に戻ろう」
荷物を全部まとめて、車へと戻る。
昼飯を食べてから帰ってもいいかもしれない。
「花音ちゃん、よかったら昼ごはん、一緒に食べない?」
「はい!ぜひ!」
「何がいいかな。海際のカフェか、家に向かう途中のファミレスとかか……」
「今から移動すると混んでるかもですから、カフェ行きませんか?」
「そうしよっか」
また車から降りて海の方に歩く。
公園内には芝生広場があって、海沿いにはキャンプ場やバーベキュー場も並んでいる。
それらを抜けた先は海水浴場になっていて、海の家代わりのカフェがある。
夏場で混んではいるけど、広い場所だから席にはまだ余裕がある。
席を確保して、カウンターへ注文しに行く。
「何食べようかな。藤乃さんどれにしますか?」
「何がいいかな。カレー食べたいけど、制服にこぼしたら嫌だしな」
「紙エプロンありますよ」
「じゃあカレーにする。この夏季限定スパイスカレー、気になってたんだ。花音ちゃんは?」
「んー、あ、パスタにします。レモンとバジルとトマト……おいしそう!」
それぞれ受け取って席に戻る。
向かいに座る花音ちゃんが、嬉しそうにパスタを頬張っていて、それだけで胸がいっぱいになる。
「藤乃さん、食べないんですか?」
「……食べるけど、花音ちゃんがかわいくて、それだけでお腹いっぱい」
「もー、またそういうこと言う。そういえば、藤乃さんも子どもの頃、セミの抜け殻集めたり、女の子にあげたりしてたんですか?」
「あんまりかな。瑞希は虫カゴいっぱいに集めてたけど。俺は雑草集めてた」
「……二人とも、イメージ通りです」
花音ちゃんがふふっと笑う。
「それに、俺はそういう“宝物”をあげたい相手もいなかったし。そういう意味では、花音ちゃんが初めてかも。自分で集めたものを、ちゃんと誰かに渡したのって」
「そうなんですか……? その、葵さんにも?」
確かに葵にはブーケやアレンジ、リースなんかをたくさん渡してきたけど、どれも試作だったり練習用だったりで――結局、余り物を欲しがったから渡してただけな気がする。
「ないなあ。欲しがられたら渡してたけど……。たぶん、自分からあげたいって思ったのは、花音ちゃんにあげたシャクヤクだけかも」
「……そっか。そうなんですね。あ、藤乃さん、そのカレー、辛いですか?」
「ちょっと、ピリピリするくらい。食べる?」
「ください!」
一口分すくってスプーンを差し出すと、花音ちゃんはためらいもなく口に運んだ。
……この娘は、俺のことどう思っているんだろう。
もし告白して、「付き合ってほしい」って伝えたら、頷いてくれるんだろうか。
それとも、困った顔になってしまうのだろうか。
こんなやりとりすらできなくなったら……つらい。考えただけで、胸が苦しくなる。



