いつか花音ちゃんが母親になったら、あんなふうに優しいお母さんになるのかな。由紀さんのお袋さんも、穏やかな人だし……瑞希にそう話したら、無言で目を逸らされたけど。
 気を取り直して、他の子どもたちの様子も見て回る。
 穴を掘るのに苦戦している女の子たちを助けに行く。

「いきなり掘ると大変だから、少しずつ崩していくといいよ」
「ありがとうございます!」
「……お兄さん、彼女いますか?」
「え、あのお姉さんが奥さんでしょ?」
「でも、指輪してないよ?」
「土いじりのときは邪魔になるから、外してるだけかもよ」

 ……今どきの女の子はませてるなあ……。あれこれ言い合う女に子たちにたじたじしつつ、口元に人差し指を当てる。

「あの子ね、俺の奥さんでも彼女でもないけど、そうなってもらえるように頑張ってるところだから、見守っててね」
「きゃー……」

 なぜか、黄色い声が上がった。
 おかしいな……静かにしててほしかっただけなんだけど。

「じゃあじゃあ告白とかするの?」
「プロポーズは!?」
「指輪、用意してる? ダイヤの!」
「ほらほら、手を動かしてね……」

 はしゃぎ出した女の子たちをなだめながら、植え替えを続けた。
 他の子供たちの様子も見て回って、花音ちゃんと合流する。

「藤乃さん、女の子にモテモテですね」
「花音ちゃんだって。俺、ちょっと妨害しそうになったよ」
「子供じゃないですか」
「そうだけどさ」

 しゃがんで苗の入っていたカゴを片付けていると、十歳に満たないくらいの男の子がやってきた。
 ニヤニヤしながら、手を背中に回している。

「お姉ちゃんに、今日のお礼あげる」
「なあに?」

 花音ちゃんがふわりと微笑んで、男の子に手を出した。
 男の子が、ぱっと両手いっぱいのセミの抜け殻を乗せた。

「わっ……!」

 花音ちゃんがよろけて、俺は慌てて体を支える。

「大丈夫?」
「はい、びっくりしただけです」
「大人のくせに、そんなんで転げてダッセエの!」

 ゲラゲラ笑いながら男の子は走り去る。
 俺と花音ちゃんは言葉を失って、とりあえず彼女の手を取って立たせた。

「なんだったんでしょうか……?」
「さあね」

 なんて誤魔化したけど、たぶんあの男の子、花音ちゃんのことが気になってたんだろうな。
 好きな子に意地悪しちゃうタイプ、なんだと思う。
 気になる女の子のすぐそばに男がいたから、つい余計なちょっかいを出したんだろう。
 もちろん譲らないけど。