「藤乃さん、話を聞いてもらっていいですか?」
「……うん」
「昨日、須藤さんのところを出たとき、藤乃さんがすごくきれいな人と話しているのを見かけて……」
「……うん? 誰だろう……?」

 藤乃さんがやっとまともに私の顔を見た。
 ……切れ長の一重の瞳が、眼鏡の奥でほんのり潤んでる。鼻も頬も、ハンカチでこすれてさっきより赤い。なんていうか……守りたくなった。泣かせたのは、私だけど……。

「お店の横で、髪がさらさらで藤乃さんより頭一つ分小柄で」
「茉莉野かな? 確かに昨日の夕方相談に来てたわ。あいつ、すぐ葵と喧嘩するから、最近店に入れないようにしてたんだけど……ごめん、それで……?」
「いえ、それだけです。その……茉莉野さん? とにかく、きれいな方と藤乃さんが話しているのを見て、ずっとモヤモヤしてました。……夢にも、出てきちゃって」
「夢?」

 ……あ、しまった。余計なこと、言っちゃったかも。
 すぐ近くにあった藤乃さんの手に、そっと触れる。びくっと震えたけど、いつものようにはつないでくれなかった。寂しくて、自分から指を絡めた。

「その……茉莉野さんと藤乃さんが並んで歩いてて、私からどんどん離れていっちゃう夢で……それだけ、なんですけど」
「俺、そんなこと……絶対にしないよ」

 震える声に、思わず顔を上げる。藤乃さんは悲しそうな顔で私を見ている。

「花音ちゃんのこと、置いていったりしないよ……絶対」
「ごめんなさい、藤乃さん。私……たぶん、焼き餅焼いてたんです。私、かわいくないし、華奢でもないし、女らしくもないから……ああいう美人さんが藤乃さんと一緒にいるのを見て……なんだか、かわいい顔してましたし」
「かわいいよ、花音ちゃん」

 藤乃さんはムスッとした顔で、やっと手を握り返してくれた。