「こんにちはー、由紀です」
須藤造園は造園業がメインで、敷地の隅っこに花屋さんもある。
うちからの納品は主に花屋さん宛で、たまに造園の方にも持って行く。
今回は切り花を花屋さんに持ってきた。
駐車場にトラックを停めて、納品書を片手に花屋さんの裏口をノックする。
「はーい、いらっしゃい、花音ちゃん」
「ふ、藤乃さ……先日は、本当にありがとうございました!」
笑顔の藤乃さんが出てきて、テンパってしまった。
慌てて取り繕ったけど……藤乃さんは穏やかな笑顔で、丸い眼鏡の奥の切れ長の瞳が、ふわっと細くなっていた。
「いえいえ、お気になさらず。今日はヒヤシンスの納品だったね」
「はいっ、すぐにお持ちしますね。こちら、ご確認お願いします」
納品書を藤乃さんに渡すと、なぜか確認もせずに、そのまま黒いエプロンのポケットにしまってしまった。
「……なんで?」と思って見上げたときには、藤乃さんはもう、さっさと歩き出していた。
昨日は作業着だったけど、今日は白いワイシャツに黒のスラックス姿で、なんだか、昨日よりもっとすらっと背が高く見えた。
「俺も運ぶよ。一緒にやったほうが早いからさ」
「そうですけど……」
「それに、女の子ひとりに運ばせるのって、かっこ悪いでしょ」
そう言って行ってしまった藤乃さんは、後ろから見ても分かるくらい耳まで真っ赤だった。
……ほんと、なんなの、この人……!
今まで男の人に女の子扱いなんてされたことがない私は、どう返したらいいのか全然わからなくて、ただ慌てて追いかけるしかなかった。
結局、藤乃さんは私よりたくさん運んでくれたし、納品書を見てる間も椅子を勧めてくれて、ミニ冷蔵庫からお茶まで出してくれた。
至れり尽くせりすぎてちょっと怖くなって、最初は断ったけど、向こうも引いてくれなくて、押し負けて結局座らせてもらった。
「はい、確認しました」
「ありがとうございます」
差し出された受領書には、少しクセのある、とがった字でサインが書かれていた。
受け取って立ち上がったそのとき、花屋の裏口が開いた。
「葵ちゃんが来ましたよーっと。あ、花音ちゃん。こんにちはー」
「葵さん! こんにちは」
「ごめんね、藤乃くん。邪魔しちゃった?」
「ほんとだよ。空気読めよ」
葵ちゃんがニコッと微笑むと、藤乃さんは笑って肩をすくめた。
……葵ちゃんとは、すごく仲よさそうに話すんだな。
そっか……いやいや、なに考えてるの、私……当たり前だよね。店員さんとバイトさんなんだから。
私がひとりでモヤモヤしていたら、藤乃さんとおそろいのエプロンをつけた葵ちゃんが、いたずらっぽくニヤッと笑って、藤乃さんの背中をポンと押した。
「私、店番してるから、花音ちゃん送ってあげて」
「うるせえ弟子だな、ほんと」
「気が利くって言って欲しいなあ」
藤乃さんがこちらに振り返る。
なんて言えばいいかも、どんな顔をすればいいかもわからなくて、多分、すごく間抜けな顔になってたと思う。
「ごめんね、騒がしくて。行こうか」
「え、でもすぐそこですし」
「いいから」
須藤造園は造園業がメインで、敷地の隅っこに花屋さんもある。
うちからの納品は主に花屋さん宛で、たまに造園の方にも持って行く。
今回は切り花を花屋さんに持ってきた。
駐車場にトラックを停めて、納品書を片手に花屋さんの裏口をノックする。
「はーい、いらっしゃい、花音ちゃん」
「ふ、藤乃さ……先日は、本当にありがとうございました!」
笑顔の藤乃さんが出てきて、テンパってしまった。
慌てて取り繕ったけど……藤乃さんは穏やかな笑顔で、丸い眼鏡の奥の切れ長の瞳が、ふわっと細くなっていた。
「いえいえ、お気になさらず。今日はヒヤシンスの納品だったね」
「はいっ、すぐにお持ちしますね。こちら、ご確認お願いします」
納品書を藤乃さんに渡すと、なぜか確認もせずに、そのまま黒いエプロンのポケットにしまってしまった。
「……なんで?」と思って見上げたときには、藤乃さんはもう、さっさと歩き出していた。
昨日は作業着だったけど、今日は白いワイシャツに黒のスラックス姿で、なんだか、昨日よりもっとすらっと背が高く見えた。
「俺も運ぶよ。一緒にやったほうが早いからさ」
「そうですけど……」
「それに、女の子ひとりに運ばせるのって、かっこ悪いでしょ」
そう言って行ってしまった藤乃さんは、後ろから見ても分かるくらい耳まで真っ赤だった。
……ほんと、なんなの、この人……!
今まで男の人に女の子扱いなんてされたことがない私は、どう返したらいいのか全然わからなくて、ただ慌てて追いかけるしかなかった。
結局、藤乃さんは私よりたくさん運んでくれたし、納品書を見てる間も椅子を勧めてくれて、ミニ冷蔵庫からお茶まで出してくれた。
至れり尽くせりすぎてちょっと怖くなって、最初は断ったけど、向こうも引いてくれなくて、押し負けて結局座らせてもらった。
「はい、確認しました」
「ありがとうございます」
差し出された受領書には、少しクセのある、とがった字でサインが書かれていた。
受け取って立ち上がったそのとき、花屋の裏口が開いた。
「葵ちゃんが来ましたよーっと。あ、花音ちゃん。こんにちはー」
「葵さん! こんにちは」
「ごめんね、藤乃くん。邪魔しちゃった?」
「ほんとだよ。空気読めよ」
葵ちゃんがニコッと微笑むと、藤乃さんは笑って肩をすくめた。
……葵ちゃんとは、すごく仲よさそうに話すんだな。
そっか……いやいや、なに考えてるの、私……当たり前だよね。店員さんとバイトさんなんだから。
私がひとりでモヤモヤしていたら、藤乃さんとおそろいのエプロンをつけた葵ちゃんが、いたずらっぽくニヤッと笑って、藤乃さんの背中をポンと押した。
「私、店番してるから、花音ちゃん送ってあげて」
「うるせえ弟子だな、ほんと」
「気が利くって言って欲しいなあ」
藤乃さんがこちらに振り返る。
なんて言えばいいかも、どんな顔をすればいいかもわからなくて、多分、すごく間抜けな顔になってたと思う。
「ごめんね、騒がしくて。行こうか」
「え、でもすぐそこですし」
「いいから」



