君に花を贈る

「須藤、藤乃ちゃん、うちにちょうだい。跡取りにするからさ」
「え、やだよ。ここまで育てるの、大変だったんだから! あ、でもそれなら次から青年会とか地域の活動は、お前が出てよな」
「出るけど、せめて早めに言って。親父、いつも当日の朝まで言わないし」

 そう言うと由紀さんが笑った。

「じゃあ、うちもそろそろ瑞希を出すか。そしたら瑞希経由で情報回るだろ」
「……げえ」

 とばっちりを食らった瑞希は、嫌そうな顔をしながらも拒否はしなかった。どちらにしろ家業を継ぐなら避けては通れないし、こういうところで愛想良くして地盤を固めるのも必要なんだ。

「じゃ、話もまとまったし帰ろっかな。須藤も帰るっしょ」
「そうしよっかな。瑞希ちゃん、乗せてくれる?」
「そのつもりで来ました。藤乃は走って帰れ、ほんと」
「乗せてくださいよ、お義兄さん」
「……うざ」

 挨拶をして店を出る。車に戻ると由紀さんと親父がさっさと後ろに乗り込んでしまったので、俺は助手席に座る。

「悪いね、付き合わせちゃって」
「いいよ。どっちにしろ迎えは必要だったし」
「それだけじゃなくてさ」

 車が動き出す頃には、由紀さんと親父の寝息が聞こえてきた。三十年後には、俺と瑞希もこんなふうになってるのかもしれない。
 ……瑞希と飲んで帰って、花音ちゃんが呆れ顔で出迎えてくれたら最高だな。
 そんなことを考えているうちに家に着く。瑞希にお礼を言って、親父を担いで家に入ると、母親が想像通りの呆れ顔で出迎えてくれた。
 親父が母親の両手を取ってニコニコしている。

「桐子さん、ただいま。家に桐子さんがいるって最高だなあ」
「かれこれ三十年いるのよ。藤乃、お風呂入ったら、栓抜いておいてね」
「はいよ」

 両親がいちゃついてるとこなんて見たくないから、さっさと浴室に向かった。
 風呂を終えて、ベッドに倒れ込む。
 スマホを見ると、花音ちゃんからメッセージが届いていた。

『今日はありがとうございました。さっき別れたばかりなのに、早く会いたいです』

 その一文が頭から離れなくて、なかなか眠れなかった。
 ねえ、どういう意味なの。
 君は、俺のことをどう思ってるの。
 たったこれだけの言葉なのに、俺にはさっぱり解読できない。