君に花を贈る

 皿が全部空になったから、最後にもう一杯ずつ飲んで締めくくることにした。
 また手をつないでエレベーターに乗ったら、今度は誰もいなかった。

「藤乃さん、ありがとうございました」
「いーえ。またどこか行こうね」
「はい。ぜひ」

 花音ちゃんはちょっと赤い顔で、微笑んでいる。
 ぎゅっと手を握ると握り返されて心臓が騒ぐ。
 ああ、キスしたい。
 でも、事故みたいにじゃなくて。
 ちゃんと、俺がこの子を好きだから、キスしたい。

「藤乃さん」
「うん?」
「ありがとうございました。……藤乃さんは、私にとってずっと王子様です。だから、藤乃さんが王子様なら……お姫様は私がいいです」
「……うん?」

 えっと、それって……俺は、なんて返せばいいんだろう。
 どんな意味の言葉なんだろう。
 酔った頭が、うまく回らない。
 ……女の子の言葉って、どうしてこんなに難しいんだろう。
 ぼんやりしてる間にエレベーターは地上に降りた。
 手をつないだままバスロータリーに向かう。

「帰り、遅くなっちゃいますよ?」
「うん。瑞希にちょっと用事があって」
「そうなんですか……?」

 不思議そうに首をかしげる花音ちゃんに、そっと微笑んだ。
 花音ちゃんは目を丸くして俺を見つめたあと、

「……一緒にいられるなら、理由なんて何でもいいです」

 と小さく笑って前を向いた。