君に花を贈る

 ビールを一緒に取りに行って、ついでに甘いデザートも皿に乗せる。
 席に戻って料理を並べると、テーブルが溢れそうなくらいに賑やかになった。
 そっと花音ちゃんの椅子を引いて、先に座らせる。そのまま俺は椅子を花音ちゃんが座る椅子にくっつけた。

「隣、座っていい?」
「は、はい……どうぞ……」

 わざと遠慮なく、ぴったりと身体を寄せて座った。そっと、くっついている方の手を、膝に置かれていた花音ちゃんの手の甲に重ねた。

「花音ちゃんの手、ちっちゃくて、やわらかくて、あったかいね」
「……そんなこと」
「あるよ。俺の手より、ずっと小さいよ」
「そ、それは……藤乃さんと比べたら、そうですけど……」

 ぴったりくっついたまま、そっと花音ちゃんの顔を見やる。その気になれば触れられそうな距離だけど、ぐっと堪えた。

「肩幅も、身長も、なにもかも俺より小さくて、やわらかい。……それでも、ダメ?」
「……ダメじゃ、ないです」

 花音ちゃんの肩がかすかに震えた。思わず一緒に泣きそうになるけど、奥歯をぎゅっと噛みしめた。

「何度も言ってるけど、俺は花音ちゃんのこと、かわいくて素敵な女の子だと思ってる。そもそも俺、同じくらいの身長の子が好みなんだよね。できればハイヒール履いて、俺より大きくなってくれると嬉しいくらい」
「……十センチくらいのヒールを履けば……たぶん、藤乃さんより高くなれます」
「そう? じゃあ俺の誕生日プレゼント、それがいいな。一日中、お姫様みたいに扱うから」
「……そんなの、いつもしてくれてますよ」
「するよ、そりゃ。花音ちゃんは俺の大事なお姫様だから。ね、もう一回乾杯しよう。仕切り直そう」

 ポケットを探ると、少しくたびれたタオルハンカチが出てきた。
 家を出るときに突っ込んできたやつだから、汚くはないはず。
 身体を花音ちゃんの方へ向けて、ハンカチをそっと顔に当てた。しばらくしたら顔を上げてくれて、目が赤いけど、涙は止まっている。

「食べ物いっぱいあるからさ、一緒に食べよう。俺一人じゃ食べきれない」
「……はい。ありがとうございます」
「どういたしまして」

 タオルをしまって、少しだけ身体を離しながらジョッキを手に取った。
 花音ちゃんもおずおずとジョッキを向けてくれた。

「乾杯」
「……かんぱい」

 ビールをぐいっと半分ほど飲んで、ソーセージをかじる。ハムやベーコンももしゃもしゃかじっていたら、花音ちゃんもゆっくり食べ始めた。

「これ、おいしいね」
「ほんとだ。こっちも美味しかったから、どうぞ」
「ありがとう」

 まだ少しぎこちないけど、花音ちゃんがふっと笑ってくれた。
 良かった。
 花音ちゃんにしょうもないことで泣かないでほしかった。くだらないことで傷ついてほしくなかった。