君に花を贈る

「藤乃さん、耳貸してください。……そういうの“事故チュー”って言って、少女漫画だと定番なんですよ。だから、大丈夫です」
「全然大丈夫じゃないんだけど!?」
「藤乃さん、首太くてかっこいいですね」
「やめて!? ……するなら、ちゃんとしたいんだから」
「えっ……。その、はい……すみません……」

 そんなやりとりをしているうちに、エレベーターは屋上に到着した。
 入り口でチケットを見せて中に入る。
 案内されたのはフェンス沿いのカウンター席で、夕日がゆっくり沈む様子が見えた。
 「とりあえずビール!」ってことで、二人でビールを取りに行った。ついでに枝豆やサラダなどの軽いおつまみも取ってきて、カウンター席に並んで腰を下ろした。

「かんぱーい!」
「えへへ、おいしいです」
「ねー、昼間汗だくだったから、うめー」
「今日は、どんなお仕事を?」
「親父と一緒に、駅前の街路樹の手入れしてたんだ」

 ビールを飲みながら枝豆をつまみつつ、今日の出来事や最近のあれこれを、とりとめもなく話す。
 花音ちゃんも、最近育てている花のことや、うまくいったこと、いかなかったことを、ずっとニコニコしながら話している。
 なんていうか……こういう時間が、幸せってやつなんだろうな……なんて、じいさんみたいなことを思った。
 蒸し暑い夜風が吹く中、手元には冷えたビール。隣では、大好きな女の子が笑ってる。

「花音ちゃん、今日もかわいいね」
「……藤乃さん、酔ってます? まだ一杯目ですよ」
「いつも思ってるよ。いつも言ってるでしょ」
「いつも言ってますけど。言われ慣れてないから、ソワソワします」
「慣れるまで言い続けるよ。慣れても、ずっと言う」
「もー……」

 そう言いながら、花音ちゃんはジョッキを傾けて、サラダをひと口つまむ。
 最初に取ってきたつまみがなくなってきた。

「俺、お代わり取ってくるわ。なんか食べたいものある?」
「じゃあソーセージと焼き鳥と……お肉系、お願いします」
「了解」

 ビールのお代わりを注いで、つまみを皿に載せて戻ると、数人の男たちが花音ちゃんに話しかけていた。
 近づいた瞬間、花音ちゃんが困った顔をしているのが見えて、胸の奥で心臓が強く鳴った。

「花音ちゃん、お待たせ。こちらは?」
「あ……藤乃さん」