夕方、家に戻って片付けをする。
 親父と交代でシャワーを浴びて着替えて、また家を出た。
 今度はバスで駅まで向かい、それから電車に乗った。
 目的の駅で改札を出たとたん、その姿がまっすぐ視界に飛び込んできた。

「花音ちゃん!」
「藤乃さん、お疲れさまです」

 振り返った花音ちゃんは、今日もやっぱりかわいい。
 白いシャツにカーディガン、細身のデニム。飲みに行くからか、髪はふわっとしたお団子にまとめられていて、うなじがきれいだし、華奢なネックレスがキラッと光っている。

「今日もかわいいね、花音ちゃん。写真、撮ってもいい?」
「えっ、ダメです……。……あ、やっぱり撮りましょう。でも、藤乃さんも一緒に写ってください」

 「ね?」とスマホを片手に俺を見る花音ちゃんは、ほっぺがほんのり赤くて――正直、持って帰りたくなった。

「うん。お願いします」

 並んで写真を撮ってもらう。花音ちゃんが少し恥ずかしそうに笑った顔を見て、俺の頬も自然とゆるんだ。

「じゃあ、行こうか。ここの屋上だからエレベーター乗っちゃおう」

 歩き出した瞬間、シャツの裾がきゅっと引かれた。振り返ると、人混みに押されて花音ちゃんが流されかかっていた。

「ごめん、早かったね。はぐれると困るから、手、つないでいい?」
「……お願いします」

 花音ちゃんが微笑みながら、そっと手を差し出してくれた。
 そっと握って今度こそ歩き出す。
 ……この子、俺のこと、どう思ってるんだろう。嫌われてはいないと思うし、それなりには好かれてる……はず、だけど。
 少し前、車の窓越しに花音ちゃんが何か言っていたのが、ずっと気になってる。でも、俺はいまだに聞けずにいる。
 女の子の気持ちを解読するのは、どうにも俺にはハードルが高すぎる。
 エレベーターは仕事帰りらしき人たちでいっぱいで、奥までぎゅうぎゅうに詰まっていた。
 花音ちゃんに体重がかからないよう、壁に手をついたけど、完全に距離を取るのは無理だった。

「藤乃さん、もうちょっと体重かけて大丈夫ですよ」
「重いでしょ」
「私が普段どれだけ重い土を運んでると思ってるんですか」
「それに、その……顔、近すぎて……なんか、余計なことしそうでさ」

 だから、必死で上の方を見てる。花音ちゃんの顔が近すぎて、直視したら正気を保てそうになかった。