車で親父と弁当を食べてたらスマホが鳴る。

「あと三十分くらいで由紀さんが苗持ってきてくれるってさ」
「親父のほう?」
「そうみたい」

 「由紀、ビール持ってきてくれねえかな……」とつぶやく親父は無視して、瑞希にスタンプを返しておいた。
 三十分後に車から降りると、すぐ後ろに由紀さんの車がやって来る。

「須藤ー、お前、今日の青年会行く?」
「なに、由紀も来るの?」
「行く行く。美園と坂木も来るってよ」
「……じゃあ、行くか」
「どれだけ嫌なんだよ。……あ、藤乃ちゃん、これ、花音から預かってる」

 そう言って差し出されたのは保冷バッグ。中には、プリンが三つ入っていた。

「ありがとうございます。……死ぬまで大切に保管します」
「いや、食えよ。藤乃ちゃんがそう言うかもって、花音が保冷バッグと容器は持ち帰れって言ってた。あと一個は俺のだからな」
「……そっか」
「藤乃ちゃん、こういうとこ須藤にそっくりで、気持ち悪いな」
「瑞希にも言われます」

 プリンを二口で食べて容器を返す。

「すごく美味しかったです。ありがとうございます」
「本人に言えって。藤乃ちゃんに誘われたって、浮かれまくってたからな。式には呼んでくれよ……」
「よ、呼びますよ。新婦の父親じゃないですか。……いや、そもそもまだ付き合ってもいないですけど」

 親父と由紀さんもペロッと食べて、三人で苗を運ぶ。

 由紀さんを見送ったら、親父と手分けして花壇の花を入れ替えていく。
 普段の手入れは地域の園芸サークルの人たちがしてくれているから、花壇はいつもきれいに整っている。
 汗を拭きながら作業をしていたら、若い男女の二人組に声をかけられた。

「こんにちは、藤乃くん」
「お仕事中ですか?」
「よお、葵、理人。学校帰り?」
「うん。図書館に行くところ。グループワークのレポート書かないといけないんだ」

 葵は少しうんざりしたように肩をすくめた。

「学校の図書館使わねえの?」
「僕らが二人でいると、妬みとやっかみとで落ち着けないんです」

 理人が微笑んだ。でも、言ってることはまったく笑えなかった。

「ああ……そう……。ていうか、グループワークなのに二人だけなんだ?」
「うん。グループの女子が、『菅野さんと江里くんのお邪魔しちゃ悪いし〜』って言って帰っちゃった」
「男子も似たようなものです。『江里の引き立て役なんてゴメン』と」
「理人に『そんなことないよ』って言ってもらうの待ちしてたから、『わかった、完成したら連絡するね☆』って二人で出てきた」

 相変わらず、この二人は顔が良すぎて、周囲とうまくいかないことがあるらしい。どっちの気持ちも、わからなくはないけど。

「なあ理人、こいつ友達いる? 大丈夫?」
「いますよ。今回は出席番号順でグループが決まっただけで、普段は菅野さんも僕も、それなりにうまくやってます。ただ今回は、多勢に無勢で少し面倒でした」
「ねー」

 相変わらず言葉遣いが小難しい理人に、葵は軽く頷いた。

「こういうの、小学生の頃からずっとだもん。大人になったら、なくなるのかな?」
「なくならない。でもお友達ごっこはしなくてよくなる」
「そっか。それだけで、十分かもね」

 二人は「またね」と手を振って並んで歩いて行った。
 俺は再び、苗を一つずつ花壇に植えていった。