「ただいまー」
「おかえり、花音。親父はどこだ?」

 駐車場で出迎えてくれた瑞希がキョロキョロと辺りを見回す。

「農協の話し合いって言ってたよ。種、このあたり買ってきたんだけど、どうかな?」
「カッコウアザミ、ブルーサルビア、ケイトウ、ルドベキアは赤とピンク……」

 瑞希は返事を待たずに助手席のカゴを覗いている。
 いくつかある種を頷きながら見ている。

「悪くないな。……なんつーか、ちょっと藤乃の好みに寄ってる気がするけど……」

 瑞希の鋭すぎる指摘に反論できない。
 だって、完全にそのとおりだから。

「だ、だって……藤乃さん、すごく褒めてくれるから。つい、藤乃さんが好きそうなものばかりになっちゃって」
「まあ、わからんではねえけど……」

 瑞希は種の入ったカゴを持って歩き出す。

「俺と親父が信頼してるのは、お前の眼と手だからさ。お前が育てるものなら商品になるって思ってるから、畑の一部を任せてるし、仕入れも任せてるわけだろ。……それに、藤乃の好みと花音の好みは、ちゃんと分けて考えるべきだしな」
「……はい。気をつけます」
「藤乃も、花音の腕をちゃんと認めてるからさ。お前が勧めた花を買ったり、楽しみにしてくれてるんだろ」

 そこまで言ってから、瑞希は私の顔を見てにやっと笑った。

「とはいえ、お前が嫁いだら、お前の畑をどうするかは考えないといけないんだけどさ。あ、知ってると思うけど、須藤さんとこの庭にも空いてる畑があるから、言えば使わせてくれると思うよ」
「な、嫁ぐって……!? そんな予定ないから!」
「ないの?」
「き……希望的観測くらいなら、あるかも……」
「嫁ぎたい?」
「まだそこまで考えられない……。ていうか、なんで私が藤乃さんのこと好きな前提で話進めるのよ」

 聞き返すと瑞希がブハッと吹き出した。

「なんでバレてないと思ってんだよ。藤乃が俺のこと『お義兄さん』って呼んでる理由、わかってんだろ?」
「理解すると対応に困るから分からないふりしてる……」
「ウケる、藤乃かわいそ。あはは」

 瑞希は笑いながら私の畑に向かってしまった。
 なんなの〜〜〜。
 自分の心配でもしてなよ、ばか兄貴!
 心の中でだけ言い返して、兄の後を追う。