そのまま藤乃さんと並んで市場の食堂へ。お弁当を買って、それぞれの車に戻り、連なって走った。
 久しぶりの海は、朝日を受けてきらきら光っていた。

「わあ、海、ほんとに久しぶり! 潮風、いい匂いですね」
「この仕事だとなかなか、まる一日休めないしね。あ、ベンチあっちにあるよ」
「はい! わ、砂が……」
「良かったら、つかまって」

 砂に足を取られてよろけたら、藤乃さんがすっと手を差し伸べてくれる。
 ……少し迷って、手を握らせてもらった。腕の方が自然だったかもしれないけど、私は藤乃さんと手を繋ぎたかった。

「……手、繋いでもいいですか?」
「もちろん。行こうか」

 藤乃さんが優しく握り返して、歩き出す。
 顔が熱いのも、手のひらがじんわり汗ばんでるのも、きっと夏の日差しのせいだけじゃない。

 ベンチの砂をはたいて、並んで座る。
 藤乃さんがニコッと笑って磯辺揚げを差し出すから、遠慮なくいただくことにした。

「藤乃さんのお弁当の揚げ物、なんですか?」
「白身魚と磯辺揚げ。そっちは?」
「唐揚げとソーセージです。そっちにすればよかったかな」
「磯辺揚げ二個入ってるからあげるよ」
「え、悪いですよ」
「代わりにソーセージちょうだい」

 ニコッと笑って藤乃さんが磯辺揚げを差し出すから、お言葉に甘えさせてもらう。

「……ん、あ、美味しい。うん、次はこれにします。……藤乃さん?」

 藤乃さんは、箸を差し出したまま、顔を真っ赤にして固まっていた。
 どしたの……。

「いや、その……お弁当に入れてもらおうと思ってただけで……」
「えっ? あっ、すみません!……食べさせてくれるのかと……すみません……」

 私のばか! 瑞希じゃあるまいし!
 そもそも瑞希に「あーん」したのなんて、何年前よ……!

「恥ずかしい……ごめんなさい……」
「えっと、大丈夫。ちょっと驚いただけだから。……俺もしてほしいって言ったら、嫌?」
「……嫌じゃ、ないです」
「良かった。……ソーセージ、もらっていい?」

 箸でそっとソーセージを摘んで、真っ赤な顔の藤乃さんに差し出す。

「どうぞ……」
「失礼します」

 大きな口が開いて、ソーセージが一口で食べられた。
 ……大きくて、手まで食べられるかと思った。

「……ありがと。ちょっと塩っぱいんだね。ごはん進む感じ。……花音ちゃん?」
「す、すみません……。藤乃さん、口、大きいですよね……ちょっと、ドキドキしちゃって」

 慌てて目を逸らして、お弁当の続きを食べる。
 視界の隅に、打ち捨てられた浮き輪が砂をかぶっていた。
 それを見て、ちょっと冷静になる。
 ……危なかった。
 藤乃さんの、大きな口にキスしたくなった。食べられてもいいなんて……いやいや、朝から何考えてるの。