市場から帰ると、風鈴がチリチリ鳴って、玄関から父が顔を出した。
「おかえり。悪いな、瑞希に任せっきりで。花音は市場、初めてだっただろ? 平気だったか?」
「こいつ、迷子になってさ。でも藤乃が見つけてくれた」
「そうかい。花音、藤乃ちゃんにお礼しとけよ」
父と兄の会話で、私を助けてくれた人が藤乃さんって名前なんだと、初めて知った。
……ううん、ていうか、なにあの人。
トラックの荷台を片付けながら、さっき出会った人のことを思い出す。
私は女にしては背が高くて、175センチもある。だから、自分より背の高い男の人には、あんまり会ったことがない。
父さんが腰を痛めて、手伝いに来いって言われて。兄に連れられて行った初めての花市場は、人も多いし広いし、もう何がなんだか。花を抱えてて周りがよく見えなくて、気づいたら自分の店がどこかもわからなくなってた。
半泣きで歩き回ってたら、誰かにぶつかっちゃって、「あ、倒れる……」って思ったとき、支えてくれたのが、あの背の高い人――藤乃さんだった。
首から下げてた許可証で、須藤造園の人だってことはわかった。たまに直接納品に行くけど、いつもいるのは花屋を仕切ってる奥さんと、バイトのかわいい女の子だけ。あんなかっこいい人、見たことなかった。
名前だけは聞いたことがある。たまに家を手伝いに来てくれてるらしいし、兄と遊びに行ったりもしてるみたい。小さい頃に会ったらしいけど、私がまだ幼稚園とかそのくらいのときの話だから、まったく覚えてない……。
我ながらチョロいとは思うけど、泣きそうなくらい心細かったときに助けてくれて、優しく店まで送ってくれて、それに、私のチューリップをあんなに褒めてくれたら……好きになっちゃっても仕方ないよね。
この身長のせいで、今まで恋愛がうまくいった試しがないし。
それに……最後、なに、あれ。
「チューリップ……花音ちゃんみたいに素敵だから……えっと、育つの、楽しみにしてる」
なにそれ……ちょっと、期待しちゃうじゃん。
高身長のイケメンが、顔を真っ赤にして、私の服の裾を掴んであんなこと言うなんて……惚れないわけないでしょ!
「花音ー朝飯さっさと食えー」
「はーい」
兄に呼ばれて、慌てて片付けを終えた。
……うまく、藤乃さんのこと、聞き出せないかな。
「おかえり。悪いな、瑞希に任せっきりで。花音は市場、初めてだっただろ? 平気だったか?」
「こいつ、迷子になってさ。でも藤乃が見つけてくれた」
「そうかい。花音、藤乃ちゃんにお礼しとけよ」
父と兄の会話で、私を助けてくれた人が藤乃さんって名前なんだと、初めて知った。
……ううん、ていうか、なにあの人。
トラックの荷台を片付けながら、さっき出会った人のことを思い出す。
私は女にしては背が高くて、175センチもある。だから、自分より背の高い男の人には、あんまり会ったことがない。
父さんが腰を痛めて、手伝いに来いって言われて。兄に連れられて行った初めての花市場は、人も多いし広いし、もう何がなんだか。花を抱えてて周りがよく見えなくて、気づいたら自分の店がどこかもわからなくなってた。
半泣きで歩き回ってたら、誰かにぶつかっちゃって、「あ、倒れる……」って思ったとき、支えてくれたのが、あの背の高い人――藤乃さんだった。
首から下げてた許可証で、須藤造園の人だってことはわかった。たまに直接納品に行くけど、いつもいるのは花屋を仕切ってる奥さんと、バイトのかわいい女の子だけ。あんなかっこいい人、見たことなかった。
名前だけは聞いたことがある。たまに家を手伝いに来てくれてるらしいし、兄と遊びに行ったりもしてるみたい。小さい頃に会ったらしいけど、私がまだ幼稚園とかそのくらいのときの話だから、まったく覚えてない……。
我ながらチョロいとは思うけど、泣きそうなくらい心細かったときに助けてくれて、優しく店まで送ってくれて、それに、私のチューリップをあんなに褒めてくれたら……好きになっちゃっても仕方ないよね。
この身長のせいで、今まで恋愛がうまくいった試しがないし。
それに……最後、なに、あれ。
「チューリップ……花音ちゃんみたいに素敵だから……えっと、育つの、楽しみにしてる」
なにそれ……ちょっと、期待しちゃうじゃん。
高身長のイケメンが、顔を真っ赤にして、私の服の裾を掴んであんなこと言うなんて……惚れないわけないでしょ!
「花音ー朝飯さっさと食えー」
「はーい」
兄に呼ばれて、慌てて片付けを終えた。
……うまく、藤乃さんのこと、聞き出せないかな。



