正直、ものすごくうらやましい。
私もいつか、あんなふうに藤乃さんの腕に手を添えて歩きたい。
思わず藤乃さんの腕を見てしまう。
いつもの花屋さんの制服らしい白いワイシャツと黒いスラックスに黒いエプロン。夏だからワイシャツの袖が肘のあたりまでまくられていて、思ったより腕が太いのがわかる。
……かっこいいなあ。
「花音ちゃん?」
じっと見つめていたら、藤乃さんが不思議そうに私を見ていた。
「す、すみません……。なんでもないです」
「この後、用事ある?」
「ないです。納品は全部終わってますし、畑の世話も午前中に済ませました」
私が首を振ると、藤乃さんが柔らかく笑った。
「じゃあ、この時間はお客さんも少ないし、葵と朝海の話でもしようか。来客があったら、そっちを優先するけど」
「はい、お願いします!」
「俺は手を動かしてるね。あと一時間くらいで店じまいだから、そろそろ片付けないと」
「あ、お手伝いします」
そう言って腰を浮かせると藤乃さんは少し目を見開く。
「……ありがとう」
家に戻るのが遅くなるとだけ連絡して、藤乃さんから箒を受け取った。
店の前を掃きながら、藤乃さんの声に耳を傾ける。
「葵と朝海が出会ったのは、葵が高校生になったとき。電車で通学するようになって……うん、混雑した電車でトラブルに巻き込まれるようになったんだ」
藤乃さんはどこか遠くを見ながら話す。
言葉をすごく選んでるけど、きっと葵さんは嫌な思いをしたんだと思う。……混んだ電車の中で。
「それで、葵が学校に行きたくないって言い出して、トラブルがわかって、お母さんと一緒に警察に相談に行ったらしい。でも“毎年のことだから”って、あしらわれちゃったらしくて」
「えっ……犯罪なのに?」
思わず声が出てしまって、藤乃さんは困ったように私を見た。
「ご、ごめんなさい。藤乃さんに言っても仕方ないのに……」
「ううん。気持ちはわかるよ。後で聞いた俺も、そう思ったから。葵の通ってた学校って進学校でさ。みんな物静かでおとなしい子が多いんだって。それで毎年、狙われるらしい。ひどい話だよね」
私もいつか、あんなふうに藤乃さんの腕に手を添えて歩きたい。
思わず藤乃さんの腕を見てしまう。
いつもの花屋さんの制服らしい白いワイシャツと黒いスラックスに黒いエプロン。夏だからワイシャツの袖が肘のあたりまでまくられていて、思ったより腕が太いのがわかる。
……かっこいいなあ。
「花音ちゃん?」
じっと見つめていたら、藤乃さんが不思議そうに私を見ていた。
「す、すみません……。なんでもないです」
「この後、用事ある?」
「ないです。納品は全部終わってますし、畑の世話も午前中に済ませました」
私が首を振ると、藤乃さんが柔らかく笑った。
「じゃあ、この時間はお客さんも少ないし、葵と朝海の話でもしようか。来客があったら、そっちを優先するけど」
「はい、お願いします!」
「俺は手を動かしてるね。あと一時間くらいで店じまいだから、そろそろ片付けないと」
「あ、お手伝いします」
そう言って腰を浮かせると藤乃さんは少し目を見開く。
「……ありがとう」
家に戻るのが遅くなるとだけ連絡して、藤乃さんから箒を受け取った。
店の前を掃きながら、藤乃さんの声に耳を傾ける。
「葵と朝海が出会ったのは、葵が高校生になったとき。電車で通学するようになって……うん、混雑した電車でトラブルに巻き込まれるようになったんだ」
藤乃さんはどこか遠くを見ながら話す。
言葉をすごく選んでるけど、きっと葵さんは嫌な思いをしたんだと思う。……混んだ電車の中で。
「それで、葵が学校に行きたくないって言い出して、トラブルがわかって、お母さんと一緒に警察に相談に行ったらしい。でも“毎年のことだから”って、あしらわれちゃったらしくて」
「えっ……犯罪なのに?」
思わず声が出てしまって、藤乃さんは困ったように私を見た。
「ご、ごめんなさい。藤乃さんに言っても仕方ないのに……」
「ううん。気持ちはわかるよ。後で聞いた俺も、そう思ったから。葵の通ってた学校って進学校でさ。みんな物静かでおとなしい子が多いんだって。それで毎年、狙われるらしい。ひどい話だよね」



