その日、道が混んでいて、須藤造園に着いたのはいつもより遅い時間だった。店先では葵さんが誰かと話していた。

「お知り合いの方ですか?」

 受領書にサインする藤乃さんに聞くと、ゆっくりと笑う。

「あれは葵の王子様」
「王子様……?」

 ついカウンターから店先を覗いた。
 背筋は真っ直ぐで、癖のある髪にシャープな顔立ち。目つきは鋭いけれど、葵さんを見る目は穏やかで優しかった。

「……どこかでお見かけしたような気がします」
「あいつ、網江朝海っていうんだけど、警察官なんだ。今は違うけど、なりたての頃は……地域課? 交番勤務で近所を回ってたから、由紀さんのところにも顔を出してたかもね」
「なるほど」

 言われてみれば、たしかにそうかも。
 姿勢が良くて、体つきもしっかりしている。警察官だと言われれば納得できる。

「気になる?」

 藤乃さんが、私の視線を遮るように顔を覗かせた。前にも、理人さんを見ていたときに同じことがあったのを思い出す。

「そうですね。警察官と大学生がどうして付き合うようになったのか、ちょっと気になります。お付き合いされてるんですよね?」
「気になるの、そっち? 葵とは、高校を卒業したときから付き合ってるよ」
「詳しく聞きたい……けど、勝手に聞くのはよくないですよね」

 そんなふうに遠慮していたら、葵さんがカウンターに戻ってきた。

「そろそろ上がるね。あ、花音ちゃん、こんにちは」
「こんにちは。……もしかして、彼氏さんがお迎えにきてくれたんですか? いいなあ……」

 つい、本音が出た。
 葵さんはエプロンを脱ぎながら、苦笑して藤乃さんを見た。

「藤乃くん、何言ったの?」
「朝海は葵の王子様って言った。朝海の話、していい?」
「いいよ。朝海くんはね、最高にかっこいい私の王子様なの。三年かけて落としたんだけど……詳しくは藤乃くんに聞いて。じゃあ、お先に」
「おう。気をつけて帰れよ」
「お疲れさまです」

 葵さんは満面の笑みでカウンターから出て行き、藤乃さんも立ち上がって手を振った。
 網江さんは軽く会釈し、葵さんは手をぶんぶん振って、二人は寄り添うように出て行った。