涙目で見上げてくる葵の頭を、つい、ぐしゃぐしゃに撫でていた。
猫みたいにすり寄ってきた葵を軽くいなして、窓の外を見た。
まだまだ雨脚は衰えない。
「雨の音とか、蝶番がギイギイ鳴るのを聞いてたら、ふと思い出しちゃっただけ。何もできない、何にもないガキだって言われたなって」
「……藤乃くんが、何もないなんて、あるわけないよ。それ、鈴美ちゃんが言ったの?」
「いや、伯父。鈴美の父親。なんか昔から目の敵にされてたんだよな……」
「それさあ……、それ……」
「うん?」
気づいたら、葵が今にも泣きそうな顔をしていた。
ほんと、バカだな。
そんな顔、する必要なんてないのに。
「そういうの、思い出すことあるの? その、今までにも」
「……どうかな」
ぼんやりと雨垂れを眺める。雨の勢いは増す一方で、きっと瑞希と花音ちゃんは畑の世話で走り回っているんだろう。
「たまに……あるかな。寝る前とか、夢で見たりするときが」
「ママさんは、知ってるのそれ?」
「知らない。言ってないし……言えるわけないだろ、あれだけ揉めたんだから」
「じゃあ、そういうときって、どうしてるの?」
「お前らが送ってきた、くだらない写真とか見たり……あとは庭とか花壇の写真集めくったり……」
「花音ちゃんの写真見たりしてるの?」
「なんで知ってんだよ……悪かったな、気持ち悪くて」
「悪くないし、キモくないでしょ」
ようやく、葵が笑って立ち上がった。
「心細いときに、好きな人の写真見て安心するのって、よくあることだよ。私だって、試験中は朝海くんの写真見てるもん」
「そっか」
「でも……藤乃くんには、それじゃ足りなさそうだね」
葵は店のエプロンを身につけて、半開きの戸棚を閉めた。ギイギイ鳴っていた音が、ようやく止んだ。
立ち上がると、雨は少し弱まっていた。
葵と並んで店先から外を眺めると、遠くに母親の運転する車が見えた。
「止まない雨はないって言うけど、どうせなら、そのあとに虹も見たいよね」
そう言って、葵は雲の切れ間の方を見ている。
「贅沢だな、お前は」
「知らなかった?」
「知ってた」
でも、葵が見てるのは西の空だし、夕方の今は虹は見えないんじゃないかって思った。
猫みたいにすり寄ってきた葵を軽くいなして、窓の外を見た。
まだまだ雨脚は衰えない。
「雨の音とか、蝶番がギイギイ鳴るのを聞いてたら、ふと思い出しちゃっただけ。何もできない、何にもないガキだって言われたなって」
「……藤乃くんが、何もないなんて、あるわけないよ。それ、鈴美ちゃんが言ったの?」
「いや、伯父。鈴美の父親。なんか昔から目の敵にされてたんだよな……」
「それさあ……、それ……」
「うん?」
気づいたら、葵が今にも泣きそうな顔をしていた。
ほんと、バカだな。
そんな顔、する必要なんてないのに。
「そういうの、思い出すことあるの? その、今までにも」
「……どうかな」
ぼんやりと雨垂れを眺める。雨の勢いは増す一方で、きっと瑞希と花音ちゃんは畑の世話で走り回っているんだろう。
「たまに……あるかな。寝る前とか、夢で見たりするときが」
「ママさんは、知ってるのそれ?」
「知らない。言ってないし……言えるわけないだろ、あれだけ揉めたんだから」
「じゃあ、そういうときって、どうしてるの?」
「お前らが送ってきた、くだらない写真とか見たり……あとは庭とか花壇の写真集めくったり……」
「花音ちゃんの写真見たりしてるの?」
「なんで知ってんだよ……悪かったな、気持ち悪くて」
「悪くないし、キモくないでしょ」
ようやく、葵が笑って立ち上がった。
「心細いときに、好きな人の写真見て安心するのって、よくあることだよ。私だって、試験中は朝海くんの写真見てるもん」
「そっか」
「でも……藤乃くんには、それじゃ足りなさそうだね」
葵は店のエプロンを身につけて、半開きの戸棚を閉めた。ギイギイ鳴っていた音が、ようやく止んだ。
立ち上がると、雨は少し弱まっていた。
葵と並んで店先から外を眺めると、遠くに母親の運転する車が見えた。
「止まない雨はないって言うけど、どうせなら、そのあとに虹も見たいよね」
そう言って、葵は雲の切れ間の方を見ている。
「贅沢だな、お前は」
「知らなかった?」
「知ってた」
でも、葵が見てるのは西の空だし、夕方の今は虹は見えないんじゃないかって思った。



