仕事の話を終えてテーブルを片付けたら、父がグラスを出してくる。瑞希が冷蔵庫からおつまみを出してきて、四人はわいわいと飲み始めてしまった。
 ちなみに母はちらっと顔を出しただけで、あとは「好きにして」と引っ込んでしまった。私もそうさせてもらおう。……藤乃さんが飲むなら、一緒に飲みたいけど。さすがに父や兄の前で、あの甘い顔をされるのはちょっと恥ずかしい。
 もちろんいつも恥ずかしいけど!

「花音ちゃん」

 自分の夜ごはんを持って廊下に出たら、藤乃さんが追いかけてきた。

「うるさくしてごめんね。たぶん二時間くらいで切り上げると思うんだけど、おばさんにも、迷惑かけて申し訳ないって伝えておいてもらえる?」
「大丈夫です。父も須藤さんがいらっしゃるの楽しみにしてましたし」
「花音ちゃんは飲まないの?」
「藤乃さんが飲まないなら、今日はやめておこうと思って」

 そう言うと、藤乃さんの眉が下がった。別に、そんなに気にしなくてもいいのに。本当は別の理由なんだけど、それを説明するのはちょっと恥ずかしい。

「えっと、代わりに今度、一緒にごはん行きませんか? あ、そうだ。藤乃さん、デートに誘ってくれるって言ってましたよね? だから、いい感じのお店で、お願いします」
「ハードル上がったなあ。でもわかった。じゃあ、また連絡するね」

 藤乃さんはニコッと笑ってリビングに戻っていく。
 その背中を見送ってから、自分の部屋に戻った。
 机にごはんを置いて、ベッドに倒れ込んだ。

「もう、かっこよすぎる……好き……っ」

 しかも、まだふんわりだけど次の約束もできた。楽しみだな……。
 結局須藤さんと藤乃さんが帰ったのは三時間後だった。須藤さんと父はすっかり酔って、顔を真っ赤にして笑っていた。それを藤乃さんと瑞希が、苦笑しながら介抱している。

「ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、家の人もはしゃいじゃって、まったく」

 頭を下げる藤乃さんに、見送りに出てきた母が呆れたように笑っている。
 瑞希が父を寝室に転がして、あまり飲めなかったとぼやいた。

「今度は外で飲もう。おっさん共がうるさくて全然飲めねえ」
「瑞希とだと車だから結局飲まねえじゃん。この辺、店ねえだろ」
「じゃあ、お前んちの近くかな。そんでお前んちに泊めて。また連絡するから」
「はいよ。花音ちゃんも遅くまでごめんね。また」
「はい、また」
「ナチュラルにいちゃつくんじゃねえよ……」
「ごめなさいね、お義兄さん。彼女できました?」
「さっさと帰れ!」

 藤乃さんは笑いながら須藤さんの腕を引いて、外へと出ていった。
 瑞希はまたぶつくさ言いながらリビングの片付けをしにいく。
 ……私も片付けを手伝って、兄に便乗してちょっとだけ飲もうかな。
 冷蔵庫からビールを二本取り出して、そっとリビングへ向かう。