君に花を贈る

「……あ、あの……私も、似たようなこと思ってるんですけど……その、初心者なので……お手柔らかにお願いします」
「お手柔らか……? とりあえず、さっきの写真送ってもらってもいい?」
「あ、はい」

 写真を送ったら、藤乃さんはスマホを見て、写真と同じ顔をして笑った。……もう、恥ずかしい。

「ところで、どうして今日はスーツなんですか?」
「これ? 今度、駅周辺の改修があるんだけど、緑地帯の整備を頼まれてね。メインは親父だけど、俺も手伝うから、一緒に打ち合わせに行ってたんだ」
「すごい」
「近いうちに使う花の相談を、瑞希と親父さんにしに行く予定だから、都合が合えば花音ちゃんも来てほしい。ほら、この間のバラ、評価良かったでしょ? ああいう華やかな花を置きたいって話になってさ」

 「だから」と、藤乃さんがニコッと笑った。
 ……さっきまでの甘い笑顔じゃなくて、ブーケがうまくできたときや、納品した花が気に入ったときの、あの職人の顔だ。

「“すごい”に花音ちゃんも入ってるんだよ。他人ごとじゃない。由紀さんは、俺たちが一番信頼してる農家さんの一つなんだから。楽しみにしてる」
「……がんばります」

 顔を引き締めて頷いた。
 こんなにかっこいい人と一緒にいるなら、私もちゃんとしなきゃ。

「よろしく。引き留めちゃってごめんね」
「いえ、こちらこそ。面倒なこと言ってすみませんでした」
「なんか言ったっけ?」
「……写真、撮りなおさせてほしいって」

 今さらだけど、ちょっとワガママで、子どもっぽかったな。
 密かに反省していたら、藤乃さんは、さっきまでとは違う、少し困ったような笑顔を見せた。

「俺、ガサツだし、気が利かないし、他人の気持ちに疎くて嫌な思いさせちゃうから、そうやって言ってくれるほうが助かる。もう一枚写真撮れたし」

 なんて返せばいいか分からなくて、無言のまま車に乗り込んだ。
 藤乃さんが、ひらひらと手を振ってくれた。。
 エンジンをかけて、窓を開ける。

「また来ます」

 と言うと、藤乃さんが目を細くした。

「俺は花音ちゃんに我慢させたくないし、嫌な思いもさせたくない。だから、これからもちゃんと言ってね。大事にしたいんだ」
「……ありがとうございます……」

 ゆっくりと走り出す。
 手を振ってくれているのは分かってたけど、ミラーで確かめる余裕はなかった。
 スーツ姿で、少し切なそうな顔して、そんなプロポーズみたいなこと言わないでほしい。
 ……さすがに藤乃さんが、本気でそういうつもりじゃないのは分かってるけど! それにしたって破壊力が強すぎる!
 いつもより慎重に運転して、家に帰った。