君に花を贈る

「……写真、今度撮りなおさせてください」
「ごめん、嫌だった?」
「せっかく藤乃さんと撮るなら、ちゃんと可愛い格好で、可愛い顔で写りたかったです」
「……その発言がもうめちゃくちゃかわいいけど……うん、でも、わかった。いきなり撮ってごめん。消したほうがいい?」

 藤乃さんが、ちょっとしょんぼりした顔になってしまった。

「そこまでしなくていいです。……じゃあ今、一枚、撮らせてください」
「喜んで」

 車の窓を借りて、少しだけ顔を整えてからスマホを取り出す。藤乃さんが構えてくれたので、心持ち近寄る。

「もう少し寄ってもいい?」
「だ、大丈夫です」

 嘘だけど。近すぎて、心臓が騒がしくて、ぜんぜん大丈夫なんかじゃない。でも、それくらいの見栄は張っていたい。

「撮るよ、笑って?」
「ひゃ、ひゃいっ」

 カシャッと鳴ってスマホが返される。やっぱりちょっと変な顔の私と、溶けそうな笑顔の藤乃さんが写っていた。

「大丈夫?」
「……大丈夫です。これはもう、私の元がダメですね……」
「何が?」

 藤乃さんが首を傾げている。
 もともと顔立ちの整ってる人には、きっと分からないのかも。しかも男の人だし。今日はスーツでちゃんとしてるから、なおさら。

「もっと、顔がかわいければよかったんですけど……」
「十分かわいいよ?」
「……藤乃さんはいつもそれ言いますね」
「いつも思ってるから。あの日市場で花束ごと飛び込んできたときから、花音ちゃんかわいい! って思ってる」

 笑顔が少しだけ消えて、穏やかなまま真剣な顔で言われた。
 それが冗談じゃないってことくらい、私にも分かる。
 分かるけど、そんなの、なんて返せばいいの……?
 私だって同じ事思ってる。
 あの日、受け止めてくれて、迷子だった私を瑞希のところへ連れて行ってくれたときから、ずっと、かっこよくて、素敵な人だって思ってる。