デートから数日後、須藤造園さんにヒマワリを持って行く。
 やっぱり夏はヒマワリ。明るい黄色を見ているだけで、気持ちが浮き立つ。
 ……デートのあと、初めて藤乃さんに会うから、浮かれてるだけかもしれない。
 駐車場に車を止めて、台車に箱を乗せていたら声をかけられた。

「花音ちゃん!」
「藤乃さ……、えっ!?」

 振り返ったら、藤乃さんだったけど……予想外に、かっちりしたスーツ姿だった。
 すごすぎて、心に嵐みたいな突風が吹き抜ける。
 濃いグレーのスーツにワインレッドのネクタイ、白いシャツ。
 細いストライプのスーツが、背の高い藤乃さんをさらにすらりと見せていた。
 いつも下ろしている髪も、今日はワックスできれいに流していて……。

「花音ちゃん? 大丈夫?」
「ダメです。それは、ダメですよ、藤乃さん……」
「えっ、ダメ?」
「かっこよすぎて……ちょっと、見られません。失礼します」

 返事も聞かず、台車を押して小走りでお店へ。
 ……当たり前だけど、すぐに追いつかれた。
 お店に着くころ、後ろから台車の持ち手をそっと掴まれた。

「花音ちゃん……?」
「……はい」

 後ろから、耳元で囁かれてそわっとする。
 おそるおそる顔を上げると、藤乃さんが優しい笑顔で覗き込んでいた。

「ちゃんと、見て欲しいな」
「む、無理です~……」

 でも私の後ろはお店の裏口で逃げられない。
 藤乃さんの手が顔の横に置かれて……壁ドン、だ。
 キスされちゃうの? それはそれで……いや、ちょっと待って。私、何考えてるの。
 近すぎて、目を合わせられない。

「花音ちゃん?」
「は、はい」
「……ごめん」

 藤乃さんが、ふいに離れた。えっ、どうして……?
 恐る恐る顔を上げると、藤乃さんが真っ赤なまま、そっぽを向いていた。

「えっと……?」
「ごめん、やり過ぎた。これ以上やると歯止め効かなくなるから、止めとくね。それ、持ってきてくれたんでしょ? どうぞ」

 早口で言って、藤乃さんはお店の裏口を開けた。
 気づいたら、スーツの袖口に手を伸ばしていた。

「……歯止め、効かなくていいです」
「んえっ!?」
「す、すみません……こちら、納品書です。ご確認お願いします」
「あ、はい、確認します。母さんー?」

  藤乃さんがお店に向かって声を上げる。
 中から、

「ママさん、いないよー」

 と葵さんの声がした。

「じゃあ葵、バケツに水張って!一番大きいやつ」
「はあい。あ、花音ちゃん、来たんだね。……二人とも真っ赤だよ」
「外、暑いし! 花音ちゃんだって台車運んでたし!」
「そういうことにしとこうね」

 顔を真っ赤にして声を張る藤乃さんに、葵さんは微笑んで、バケツを取りに行ってしまった。