君に花を贈る

 ぽかんとした花音ちゃんの手を引いて、屋台の方へ歩き出す。たこ焼きとロングポテト、それに唐揚げを買って、近くのベンチに並んで腰かけた。

「こないだ行った展覧会の目録見た?」
「はい。何度か見返してます」
「鈴美のアレンジって基本的に派手だよね。豪華で、迫力がある」

 ポテトをかじる。やたらしょっぱい。唐揚げは少し硬くて、もう冷めかけてた。

「花音ちゃんの作るバラならそこで主役を張れると思うんだけど、どうかな」

 花音ちゃんの手元でたこ焼きが崩れて、ソースが口元についた。そっと手を伸ばして拭ってやると、花音ちゃんがぴくっと跳ねた。

「あ、あの……ちょっと、考える時間もらえますか?」
「もちろん。急にごめんね。食べたら戻ろう。まだ投票してないし」

 ポテトと唐揚げを花音ちゃんに勧めて、代わりにたこ焼きをひとつもらう。熱さに驚いて、思わずむせた。

 ……半分は、意地だと思う。
 これでもかってくらい嫌な思いをさせられたあいつらを、見返したい。
 俺が花を選ばなきゃ、鈴美なんてろくにアレンジ作れないんじゃないかって、そんなふうに思っちゃってた。
 それに、花音ちゃんを巻き込んでるのも悪いなって思う。
 ついぼんやりしてたら、花音ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。

「……須藤さん」
「ん、なに?」
「……今はデート中なんですから、他の人の名前、出さないでください」

 言葉に詰まる。
 俺は、どうかしてる。
 こんなにかわいい子が目の前にいるのに、なんで俺は、嫌いなやつのことなんか考えてたんだろう。

「ごめん……どうかしてた」

 少し泣きたくなったけど、花音ちゃんが手を握ってくれてるから、ちゃんと我慢できた。

「俺からも、お願いしていい? せっかくのデートなんだし……名前で呼んでほしい。俺も、そうしてるし」
「……わかりました。藤乃、さん?」
「……ありがと。あと、もうひとつ。連絡先、教えてもらってもいい?」
「はい!」

 花音ちゃんがスマホを取り出して、画面を向けてくれるので、カメラで読み取る。
 無難なスタンプをひとつ送る。すぐに既読がついて、無性に安心した。

「じゃあ、行こうか」