花音ちゃんと約束したその日は、家から少し離れた駅で待ち合わせた。
 約束の十分前に着いた俺は、スマホと花音ちゃんが来そうな方向を交互に見ていた。

「須藤さん! 早いですね、待たせちゃってすみません」
「いや、俺も今来たとこだから……」

 いつもの決まり文句なのに、途中からうまく言えなくなった。
 だってさ、花音ちゃんがワンピース着てるんだ。
 前回出かけたときの服も、きれいだったしかわいかったし、(俺の情緒が)大変だったけど、今日のワンピースも、どうしようもないくらい可愛かった。
 ふわっとしたスカートのワンピースにすっきりしたブレザーっぽいジャケットを着てて、スカートを風になびかせて駆け寄ってくる姿が愛らしくて、背が高いからスタイルもすごく映える。いや、そもそもスタイルがいいんだろうけど、それがさらにマシマシで……もう、どうしようもなく好きだった。手遅れなのは、とっくの昔だ。

「須藤さん?」

 黙ってしまった俺を、花音ちゃんが不安そうに覗き込む。目尻が少しキラッとしてて、いつもはしてない化粧もわざわざしてくれたのかと思うともう……。

「ごめん、あんまり可愛くて……ちょっと驚いた」
「えっ、あ……、えっと、須藤さんも……かっこいいです」
「あ、ありがと。行こっか」
「はい!」

 二人でそわそわしながら歩き出す。……緊張しすぎて、少し浮き足立ってたかもしれない。それくらい、脚の感覚がふわっふわだった。

「本格的な品評会というより、お祭りの中で『一番人気を決めよう!』みたいな企画みたいです」

 電車に乗ってすぐ、花音ちゃんがスマホの画面を差し出してきた。
 画面には、「○○市民祭り」と大きく表示されている。

「ああ、お祭りだから、車じゃ行けないのか」
「そうなんです。縁日も出るみたいで。たこ焼き、一緒に食べましょう」

 笑顔の花音ちゃんが可愛くて、気づけば目が離せなかった。
 スマホを少し覗き込むと、ふわっといい香りがした。思わず深く吸い込みたくなるけど、ぐっとこらえる。……いつか、自然に許される距離になれたらいい。

「うん、せっかくだし、ゆっくり見て回ろう」

 そう言うと、花音ちゃんが嬉しそうに笑った。なんでもないその笑顔に、思わず胸が詰まって、俺は次の言葉を飲み込んだ。