店に戻ったら、仕入れた花を水を張ったバケツに移す。
ピンクのチューリップだけは、乾燥剤入りの容器にそっと収めた。
店頭の花の水を替えて、店内を掃く。エプロンをつけて、シャッターを上げれば営業開始だ。
「あら、今日は藤乃くんが店番なのね」
「おはようございます、鈴木さん。いつもありがとうございます」
「ずいぶんしっかりした、いい男になったわね」
「鈴木さんも、昔から変わらずおきれいですね。今日のおすすめは、今朝仕入れたヒヤシンスです。たしか、ご主人が黄色い花がお好きでしたよね」
「商売上手ねえ。じゃあ、藤乃くんのおすすめで、千円くらいの花束お願いね」
「承知しました」
午前中は常連客が顔を出してくれて、そこそこ賑わう。
昼過ぎに母親と交代して昼飯をとり、そのまま庭師のじいさんと、お客さんの家の庭木の剪定に向かう。
夕方、店に戻ると、バイトの葵が店番をしていた。
「あ、藤乃くん、おかえり」
「ただいま。売れ行きはどう?」
「この美少女が店番してるんだよ? 売れないわけないじゃん」
「それは心強い」
実際、店先に葵がいるかいないかで、売れ行きはちょっと変わる。大学を卒業したら看板娘になってほしいくらいだけど、こいつ、警察になるって決めてるんだよな。
「今日、何時まで?」
「18時。そんくらいに朝海くんが迎えに来るよ」
「へいへい。過保護だな、お前のダーリンは」
「こんな美女を夜ひとりで歩かせられる?」
「……確かに」
葵は、うちの常連客でもある神社の孫娘。じいさん同士が幼なじみで、俺も小さい頃からじいさんの現場についてって、神社によく出入りしてた。
俺が小学校に上がるころ、神主さんの娘さんが赤ん坊の葵を連れて、神社の裏にしばらく住んでた。だから、このやかましい自称美女のおむつを替えたこともあるし、一緒に風呂に入れられたこともある。
顔はきれいだけど、とにかくうるさいし、あの赤ん坊がこんなに大きくなったんだな……っていう、親戚みたいな感慨があるし。細くて小さいから、余計に、
「俺の嫁になって、うちの看板娘になってくれ」
なんて、言う気にはならない。
葵には、世界一いい男を捕まえて、ずっと幸せに暮らしてほしい。俺はその結婚式で、号泣する予定だ。
ま、世界一かどうかはさておき。ベタ惚れの彼氏をちゃんと連れてきたんだから、あとはそいつに任せたい。
葵が学校の話や授業の愚痴、朝海くんがどれだけいい男かを延々しゃべってるのを聞き流しながら、店番に入る。
「このチューリップは?」
めざとくピンクのチューリップを見つけた葵が袋を覗き込んでいる。
「それ、俺の一生の宝物にするから、触んないで」
「ふうん」
興味なさそうに、葵はすぐ袋から離れた。
ピンクのチューリップだけは、乾燥剤入りの容器にそっと収めた。
店頭の花の水を替えて、店内を掃く。エプロンをつけて、シャッターを上げれば営業開始だ。
「あら、今日は藤乃くんが店番なのね」
「おはようございます、鈴木さん。いつもありがとうございます」
「ずいぶんしっかりした、いい男になったわね」
「鈴木さんも、昔から変わらずおきれいですね。今日のおすすめは、今朝仕入れたヒヤシンスです。たしか、ご主人が黄色い花がお好きでしたよね」
「商売上手ねえ。じゃあ、藤乃くんのおすすめで、千円くらいの花束お願いね」
「承知しました」
午前中は常連客が顔を出してくれて、そこそこ賑わう。
昼過ぎに母親と交代して昼飯をとり、そのまま庭師のじいさんと、お客さんの家の庭木の剪定に向かう。
夕方、店に戻ると、バイトの葵が店番をしていた。
「あ、藤乃くん、おかえり」
「ただいま。売れ行きはどう?」
「この美少女が店番してるんだよ? 売れないわけないじゃん」
「それは心強い」
実際、店先に葵がいるかいないかで、売れ行きはちょっと変わる。大学を卒業したら看板娘になってほしいくらいだけど、こいつ、警察になるって決めてるんだよな。
「今日、何時まで?」
「18時。そんくらいに朝海くんが迎えに来るよ」
「へいへい。過保護だな、お前のダーリンは」
「こんな美女を夜ひとりで歩かせられる?」
「……確かに」
葵は、うちの常連客でもある神社の孫娘。じいさん同士が幼なじみで、俺も小さい頃からじいさんの現場についてって、神社によく出入りしてた。
俺が小学校に上がるころ、神主さんの娘さんが赤ん坊の葵を連れて、神社の裏にしばらく住んでた。だから、このやかましい自称美女のおむつを替えたこともあるし、一緒に風呂に入れられたこともある。
顔はきれいだけど、とにかくうるさいし、あの赤ん坊がこんなに大きくなったんだな……っていう、親戚みたいな感慨があるし。細くて小さいから、余計に、
「俺の嫁になって、うちの看板娘になってくれ」
なんて、言う気にはならない。
葵には、世界一いい男を捕まえて、ずっと幸せに暮らしてほしい。俺はその結婚式で、号泣する予定だ。
ま、世界一かどうかはさておき。ベタ惚れの彼氏をちゃんと連れてきたんだから、あとはそいつに任せたい。
葵が学校の話や授業の愚痴、朝海くんがどれだけいい男かを延々しゃべってるのを聞き流しながら、店番に入る。
「このチューリップは?」
めざとくピンクのチューリップを見つけた葵が袋を覗き込んでいる。
「それ、俺の一生の宝物にするから、触んないで」
「ふうん」
興味なさそうに、葵はすぐ袋から離れた。



