「……どんな顔して会えばいいんだろ……」

 私は須藤造園の裏口の前で立ち尽くしていた。
 この前納品に来たとき、実は熱を出してて……藤乃さんが、家まで運んでくれたらしい。
 あとで母さんから聞いて、恥ずかしさで消えてしまいたくなった。
 しかも部屋に入ったって……。藤乃さんにもらったドライフラワーとか目録、絶対見られてるよね……。
 でも、それはそれ。
 今日はちゃんと納品しなきゃ……。台車の花を、思わずもう一度チェックする。
 今度こそ扉をノックしようと、右手を振り上げた。

「花音ちゃんだ。熱下がった?」
「わ……っ!」
「驚かせちゃった? ごめんね」

 手を振り上げたまま振り返ると、ニコニコと笑顔で見上げる葵さんがいた。

「びっくりしました……」
「お花持ってきたんだよね」

 葵さんは事もなげに扉を開ける。ちょっと待って、心の準備が……!

「こんにちはー、花音ちゃん、来てますよー」
「あら、こんにちは」

 出迎えてくれたのは須藤さんの奥さんだった。ちょっと拍子抜け。
 納品書をお渡しして、台車を運び込む。

「葵ちゃん、バケツ用意してね。花音ちゃん、これ、藤乃から」
「あ、ありがとうございます。先日は、本当にすみませんでした」
「気にしないで。元気になったのなら、良かったわ」

 渡されたのはペットボトルのお茶と塩飴だった。……わざわざ用意しておいてくれたんだ。
 奥さんが受領書にサインして、私に手渡してくれた。
 藤乃さんの字に似てるけど、もう少しやわらかくて、女性らしい感じがする。

「はい、確認しました。今日は藤乃、お義父さんと一緒に外回りしてるのよ」
「そうなんですね」
「……花音ちゃん、ありがとうね。あの日、藤乃を連れていってくれて」

 奥さんの言葉がすぐには飲み込めなくて、首をかしげていると、「展覧会」と聞いてようやく思い当たった。

「鈴美さん、ですか?」
「ええ、誰かが無理にでも連れていかないと、きっとあの子、一生行かなかったと思うわ」
「……でも、鈴美さんって、藤乃さんのこと……嫌いじゃないですよね?」
「やっぱりわかる? あれだけ分かりやすいと、隠しきれないわよねえ」
「え、そうだったの?」

 葵さんが目を丸くする。

「あ、だからあんなに藤乃くんにべたべたしてたんだ? そっか……」

 頷きながらつぶやいてるから、きっと葵さんにも思い当たるところがあるんだろう。

「鈴美ちゃんのこと、藤乃から何か聞いてる?」
「……はい、少しだけ。えっと、鈴美さんが有名になってから、お父さんからの当たりが強かったって」
「そんな生易しいもんじゃなかったのよ」