君に花を贈る

 店のエプロンを外して、真っ赤な顔でぼんやりこっちを見ている花音ちゃんの横にしゃがむ。
 そっと手を取ると、花音ちゃんはやっぱりぼんやりした瞳を俺に向ける。

「花音ちゃん、由紀さんの家まで送るから、車の鍵貸してくれる?」
「……でも」
「気になるなら、今度またデートしてくれたらいい。次は俺から誘うから」
「……それ、私が嬉しいやつですよ……」
「花音ちゃんが喜んでくれたら俺も嬉しいから。家まで送らせてくれる?」
「はい……」

 ぽやっとした表情のまま、花音ちゃんは胸ポケットから車の鍵を出してくれた。

「……母親の前で、よく女の子を口説けるわね……」
「藤乃くん、手慣れてる……? え、私の知ってる藤乃くんじゃない……」

 やかましい母親と葵を睨む。
 つーか、母親と弟子兼妹もどきの葵と、花音ちゃんへの対応が同じなわけないだろ。

「うるせえなあ。とにかく行ってくるから」
「はいはい、病人は休ませてあげなさい。くれぐれも自重してよね」
「母親がそういうことを言うな!」

 花音ちゃんを正面から抱き上げる。葵が扉を開けてくれたので、小さく「サンキュ」と言って店を出た。
 駐車場で、由紀農園の車の助手席に花音ちゃんをそっと座らせた。

「すみません……」
「そう思うなら、早く元気になってね」
「……はい」

 シートベルトを締めてもらってから、運転席に回る。瑞希に「今から送る」とメッセージを入れてから、エンジンをかけた。

「気をつけるけど、気持ち悪かったら言ってね。着くまで寝てていいよ」

 花音ちゃんが小さく頷いたのを見てから、ギアを入れる。