「今日はありがとうございました。一緒に行けてよかったです」
「こちらこそ。いつかは行かなきゃって思ってたから、誘ってくれて嬉しかった」

 車を降りてなんとなく並んで家に向かう。玄関の少し手前で立ち止まり、藤乃さんの手に自分の手を重ねた。

「……また、どこか行きましょう」
「うん。次は俺から誘うから」
「はい。楽しみにしてます」

 重ねた手をそっと握って離す。離れた瞬間、また掴まれた。

「……ごめん。ちょっと別れがたかった」

 玄関から少し離れていて、暗くて藤乃さんの顔は見えない。見えないけど、たぶん私と同じような表情をしている気がした。

「私もです。次は来週クレマチスとアジサイをお持ちします」
「うん、楽しみにしてる」

 一瞬間を置いて、手を離した。
 玄関に入ると母さんが出てきて、藤乃さんと少し話していた。

「じゃあ、今日はありがとう。おやすみ」
「こちらこそ。おやすみなさい」

 藤乃さんは私と母さんに頭を下げて、出て行った。

「どうだった?」

 母さんが目をキラッキラにしてこっちを見ている。……ちょっとは遠慮して欲しいけど、浮いた話のない娘がデートしてきたらテンション上がるのはわかる。
 でも、私もまだ整理できていない。

「……須藤さんが、すごく気を遣ってくれてた」

 それだけ言って、洗面所に逃げた。
 抱えたままの目録が、汗でしんなりしていた。
 たぶん、藤乃さんの目録もしんなりしているんだろう。