君に花を贈る

「じゃあ、車に戻って帰ろっか」
「はい。あの……車まで、手、つないでもいいですか?」
「……俺、手汗すごいけど?」
「大丈夫です。自分で言っといてドキドキしてますから」

 そう笑って見せたら、藤乃さんはやっぱり赤い顔で手を差し出してくれた。
 恋人同士っていうより、園児が手をつないでるみたいな感じだけど、それでも重なるところは温かくて、そわそわする。
 いつもよりちょっとゆっくり歩いて展覧会の建物まで戻る。

「ちょっと寄り道してもいい?」
「なんでしょう?」
「展覧会の目録買っておきたいんだ」

 ちょっと意外だった。あれだけ鈴美さんと揉めたのに、それは買うんだ。
 売店には目録の他に押し花のしおりや、一輪挿しなんかも売っている。散々悩んで結局買わなかった。
 ……見るたびに鈴美さんのことを思い出して、モヤモヤしちゃいそうで、買えなかった。
 目録を買ってきた藤乃さんと合流して、また手をつないで車に戻った。
 車に乗り込むと、藤乃さんが目録を差し出した。

「二冊買ったから、一冊あげる。センスをよくするには、『上手だと思う作品をちゃんと見る』って言ったし。俺も好き嫌いせずにちゃんと見るから、付き合って」
「……はい。あの、じゃあこれを誕生日プレゼントにしてください。初めてのデートで、その記念も兼ねて」

 そう言うと、藤乃さんは目を丸くした。
 それから視線をさまよわせて、下を向いてしまう。

「うん、花音ちゃんがそれでいいなら」
「ありがとうございます」

 シートベルトを締めて、目録を膝に乗せた。
 さっき言われた「付き合って」を耳の中で反芻する。……いや、そういう意味じゃないのはわかってるけど。録音しておきたいくらい、素敵な響きだった。
 ゆっくり車が動き出す。街灯が流れるのを見ているうちに、家に着いた。
 駐車場に車が止まって、エンジンが切られたタイミングで藤乃さんの方を向いた。