君に花を贈る

 その朝、俺は少し緊張しながら、由紀農園に向かった。
 瑞希の親父さんは、冬ごろから腰の調子が悪かったらしい。長引いてるみたいで、検査入院することになったそうだ。
 検査の三日間だけ手を貸してくれないかって、瑞希とおばさんが、うちの母親に頼んだらしい。母の日が終わって、店がひと息ついたタイミングだったから、母親が引き受けてきた。
 小さい頃は親父にくっついてよく遊びに行ってたし、大学のときもちょくちょく手伝ってたから、行くのは気楽なもんだ。

 ……それに、花音ちゃんにも会えるかもしれないし。

 俺が大学生だった頃、花音ちゃんは高校生で、部活が忙しくて顔を合わせることはなかった。
 だから、今の花音ちゃんが、あんなに綺麗になってるなんて思ってもなかった。

 そういうわけで、朝一から瑞希の家に行ったら、玄関に出てきた花音ちゃんは、ぽかんとした顔でこっちを見ていた。Tシャツとジーパンのさっぱりした格好だけど、背が高いからすっきり見えてよく似合ってる。……やっぱり、かわいいし、どこかかっこよさもあって、目を奪われる。

「えっと……あの、どうして……?」
「瑞希とおばさんから聞いてない? おじさんが入院中だから、手伝いに来たんだ」
「……聞いて、ないです……」
「えー、そっか。ごめんね急に。驚かせちゃって。瑞希は?」
「まだ、市場から戻ってないんです。でも、手伝いに来てくれたんですよね? ごめんなさい、びっくりして……。どうぞ、上がってください」

 花音ちゃんはまだ戸惑ってる様子だったけど、「どうぞ」と部屋の中を手で示した。
 ……これ、本当に上がっていいんだろうか。
 女の子一人の家に入るのって……やっぱり、ちょっと気が引けるな。瑞希の家だけど……。