次の日の夕方、台車を押して花屋さんの裏口の扉を叩いた。
すぐに藤乃さんが出てきて、箱を運んでくれる。
「ありがとう。ごめんね、今日はスーツじゃなくて」
「いえ、いつもかっこいいから大丈夫です」
「藤乃の彼女?」
聞き慣れない声がして、慌てて探したら、藤乃さんの向こうにスーツ姿の男性がいた。藤乃さんと同じくらいの年頃に見える。
藤乃さんより頭ひとつ分ほど背が低く、恰幅がよくて、柔らかい雰囲気の人だった。
「まだ彼女じゃないよ。告白しようと思ってデートの約束してたんだけど、この前の打ち合わせで流れちゃってさ。花音ちゃん、この人、俺と同じ大学で……え、お前なに? 友達?」
「と、友達だろ! ラーメン奢ったし、カラオケも合コンも一緒に行ったじゃねえか!」
「合コン?」
「ち、違うからっ! 大学の時に、人数合わせで無理やり連れて行かれただけで!」
聞き返すと、藤乃さんは珍しく焦った顔で首を振った。別に気にしてないけど。大学のときのことならもう十年近く前の話だ。
「お前な、花音ちゃんの前でそういうこと言うなよ。ラーメンはお前のバイト先に食べに行っただけで、ちゃんと金も払ってるし。こいつ、役所勤めでさ、駅前改修の担当補佐なんだ。だから、新しい担当が何考えてたか、こいつに教えてもらったんだよ」
「あ、なるほど」
私が頷くと、その男性も柔らかく微笑んでうなずき返した。
「この前は悪かったね。あの人も根は悪くないんだけど、ちょっと気負ってたみたいでさ。……お詫びに、これあげる」
そう言って男性が差し出したのは、包み紙にくるまれた細長い封筒だった。……なんだろう、チケットか金券かな。
「なにこれ」
「水族館のチケット。使う予定がなくなったから、あげるよ」
男性はふと視線を落とした。
……あまり、詮索しない方がよさそうだ。
すぐに藤乃さんが出てきて、箱を運んでくれる。
「ありがとう。ごめんね、今日はスーツじゃなくて」
「いえ、いつもかっこいいから大丈夫です」
「藤乃の彼女?」
聞き慣れない声がして、慌てて探したら、藤乃さんの向こうにスーツ姿の男性がいた。藤乃さんと同じくらいの年頃に見える。
藤乃さんより頭ひとつ分ほど背が低く、恰幅がよくて、柔らかい雰囲気の人だった。
「まだ彼女じゃないよ。告白しようと思ってデートの約束してたんだけど、この前の打ち合わせで流れちゃってさ。花音ちゃん、この人、俺と同じ大学で……え、お前なに? 友達?」
「と、友達だろ! ラーメン奢ったし、カラオケも合コンも一緒に行ったじゃねえか!」
「合コン?」
「ち、違うからっ! 大学の時に、人数合わせで無理やり連れて行かれただけで!」
聞き返すと、藤乃さんは珍しく焦った顔で首を振った。別に気にしてないけど。大学のときのことならもう十年近く前の話だ。
「お前な、花音ちゃんの前でそういうこと言うなよ。ラーメンはお前のバイト先に食べに行っただけで、ちゃんと金も払ってるし。こいつ、役所勤めでさ、駅前改修の担当補佐なんだ。だから、新しい担当が何考えてたか、こいつに教えてもらったんだよ」
「あ、なるほど」
私が頷くと、その男性も柔らかく微笑んでうなずき返した。
「この前は悪かったね。あの人も根は悪くないんだけど、ちょっと気負ってたみたいでさ。……お詫びに、これあげる」
そう言って男性が差し出したのは、包み紙にくるまれた細長い封筒だった。……なんだろう、チケットか金券かな。
「なにこれ」
「水族館のチケット。使う予定がなくなったから、あげるよ」
男性はふと視線を落とした。
……あまり、詮索しない方がよさそうだ。



