君に花を贈る

 食べ終えて、片付けようと立ち上がったら、藤乃さんが台所までついてきた。手には父たちの食器が乗ったお盆を持っている。

「洗い物くらい手伝うよ」
「でも……」
「この前、うちでごはん作ってくれたよね。俺もお世話になったし、これくらいさせてよ」
「……じゃあ、お願いします」

 一歩下がって、洗い物を任せる。
 振り返ると、父と須藤さんは上機嫌で飲んでいて、母さんと瑞希はテレビに夢中になっていた。……最近二人でハマっている推理ドラマだ。

「花音ちゃんもテレビ見ておいでよ」
「テレビより、藤乃さんの隣にいる方がずっといいです」
「……そっか」

 藤乃さんは困ったように笑って、視線を逸らした。何か変なことを言っただろうか。

「あのドラマ、母と瑞希は好きなんですけど、私は全然見てないからわかんなくて」
「あー、そっか。そうなんだね。俺もドラマは全然みないからわかんないや」

 隣に立って、水を一口飲みながら藤乃さんの横顔を盗み見る。額に少し汗が浮いていて、首筋に髪が張り付いていた。
 触れたいけれど、ぐっと我慢する。
 ……私たちはまだ、気軽に触れ合える関係じゃない。
 藤乃さんもそう思って、さっき触れる前に手を止めたのかなあ。
 ……好きだな、やっぱり。