「まあ、今回は俺たちの説明不足もあったよな。今までのことは伝わってる前提で動いちゃってた。でも、新しい担当がどこまで事情を知ってたかはわからないし……手間だけど、またちゃんとすり合わせよう」
須藤さんはそう言うと、お茶を一気に飲み干した。
「由紀んとこの花を無駄にはしたくなくてな。悪い、まだ確定してないのに愚痴だけ言いに来ちまって」
「いいよ。酒飲もう!」
「親父……」「お父さん……」
瑞希と私の呆れ返った声が重なった。
父はそんなことお構いなしに台所へ向かっていく。……畑の片付け、まだ終わってないけど?
「片付けは俺がやっとく。藤乃は……」
「あ、俺は畑手伝うよ。……体動かさないとモヤモヤしちゃうから」
「ジャケットは置いてけよ。花音、ハンガー出してやってくれ」
「はい!」
スーツ用のハンガーを持ってきて、藤乃さんからジャケットを受け取る。すると、少し疲れた笑顔を見せてくれた。ネクタイをほどく指は太くて、ごつごつした手の甲が男の人らしかった。
「ごめんね、迷惑かけて」
「とんでもない。すぐに相談に来ていただけてありがたいです。それに……」
周りを見回して誰も近くにいないことを確認する。
藤乃さんの耳元に口を寄せた。
「スーツ姿の藤乃さん、かっこいいから、見せに来てくれて、嬉しかったです」
「……花音ちゃん、あんまり煽らないでって言ったでしょう」
「すみません、言いたくて。あ、夜ごはん食べていきますよね? 片付けが終わるまでに用意しておきます」
そう言ったあと、藤乃さんのネクタイを持つ手が私の方へ伸びてきて……触れる寸前で止まった。
だから私は、ネクタイごと藤乃さんの手を取った。
「私には結果を聞くことしかできませんが、藤乃さんと須藤さんが納得できる話し合いになるよう、陰ながら応援しています」
「……うん。ありがとう。ごはんも楽しみにしてる」
藤乃さんは少しだけはにかんで、出て行った。
さて、夕飯は何にしようかな。
酒盛りを始めた父と須藤さんの横を抜けて、台所へ向かった。
夕飯を出すと、それまで賑やかだった父と須藤さんが、急に真面目な顔で周囲を見回した。
瑞希と藤乃さんも背筋を伸ばしている。
「とりあえず、これまでの経緯とか、予算、工期を再確認再説明しないといけねえから、明日、先方に連絡して時間をもらう。その上で、うちが出した造園の提案にどれだけご理解いただけるか、だな」
須藤さんが酒瓶を片手に持ったまま、淡々と話す。
「藤乃は今までの経緯がわかるようにまとめといて。あと担当補佐の人に根回しも。由紀は、今回追加で向こうが使いたいって言い出した低木と花のリスト渡すから、金額と用意にかかる時間、出しといて」
「わかった」
「あいよ。母さん、頼む」
「はあい。使う可能性はどのくらい?」
「できる限りゼロに近づけたい。でもまあ、そのうちの金額的に予算内に収まるものや、すぐ出せるものだったら譲歩してやらんこともない、くらい」
「わかりました」
母さんは小さく頷いて、また箸を動かした。
私が手伝う出番はなさそう。……藤乃さんは、さっきのようなしょんぼり顔もすっかり消えて、瑞希と話しながら夕飯を食べている。私も、さっさと食べちゃおう。
須藤さんはそう言うと、お茶を一気に飲み干した。
「由紀んとこの花を無駄にはしたくなくてな。悪い、まだ確定してないのに愚痴だけ言いに来ちまって」
「いいよ。酒飲もう!」
「親父……」「お父さん……」
瑞希と私の呆れ返った声が重なった。
父はそんなことお構いなしに台所へ向かっていく。……畑の片付け、まだ終わってないけど?
「片付けは俺がやっとく。藤乃は……」
「あ、俺は畑手伝うよ。……体動かさないとモヤモヤしちゃうから」
「ジャケットは置いてけよ。花音、ハンガー出してやってくれ」
「はい!」
スーツ用のハンガーを持ってきて、藤乃さんからジャケットを受け取る。すると、少し疲れた笑顔を見せてくれた。ネクタイをほどく指は太くて、ごつごつした手の甲が男の人らしかった。
「ごめんね、迷惑かけて」
「とんでもない。すぐに相談に来ていただけてありがたいです。それに……」
周りを見回して誰も近くにいないことを確認する。
藤乃さんの耳元に口を寄せた。
「スーツ姿の藤乃さん、かっこいいから、見せに来てくれて、嬉しかったです」
「……花音ちゃん、あんまり煽らないでって言ったでしょう」
「すみません、言いたくて。あ、夜ごはん食べていきますよね? 片付けが終わるまでに用意しておきます」
そう言ったあと、藤乃さんのネクタイを持つ手が私の方へ伸びてきて……触れる寸前で止まった。
だから私は、ネクタイごと藤乃さんの手を取った。
「私には結果を聞くことしかできませんが、藤乃さんと須藤さんが納得できる話し合いになるよう、陰ながら応援しています」
「……うん。ありがとう。ごはんも楽しみにしてる」
藤乃さんは少しだけはにかんで、出て行った。
さて、夕飯は何にしようかな。
酒盛りを始めた父と須藤さんの横を抜けて、台所へ向かった。
夕飯を出すと、それまで賑やかだった父と須藤さんが、急に真面目な顔で周囲を見回した。
瑞希と藤乃さんも背筋を伸ばしている。
「とりあえず、これまでの経緯とか、予算、工期を再確認再説明しないといけねえから、明日、先方に連絡して時間をもらう。その上で、うちが出した造園の提案にどれだけご理解いただけるか、だな」
須藤さんが酒瓶を片手に持ったまま、淡々と話す。
「藤乃は今までの経緯がわかるようにまとめといて。あと担当補佐の人に根回しも。由紀は、今回追加で向こうが使いたいって言い出した低木と花のリスト渡すから、金額と用意にかかる時間、出しといて」
「わかった」
「あいよ。母さん、頼む」
「はあい。使う可能性はどのくらい?」
「できる限りゼロに近づけたい。でもまあ、そのうちの金額的に予算内に収まるものや、すぐ出せるものだったら譲歩してやらんこともない、くらい」
「わかりました」
母さんは小さく頷いて、また箸を動かした。
私が手伝う出番はなさそう。……藤乃さんは、さっきのようなしょんぼり顔もすっかり消えて、瑞希と話しながら夕飯を食べている。私も、さっさと食べちゃおう。



