三日後の夕方、藤乃さんが須藤さん――藤乃さんのお父さんと一緒に、うちにやってきた。
 スーツ姿の二人が、畑の隅で父と瑞希、そして私を呼んでいた。

「おう、須藤……酒、用意してくるわ」
「……凹んでんね。花音一晩貸そうか?」
「何言ってるの二人とも。……大丈夫ですか?」

 父と兄がそれぞれ目を丸くして須藤さんと藤乃さんに声をかける。
 ……須藤さん親子は、ふたりともそっくりなしょげ顔をしていて、思わず笑いそうになった。でも、それ以上に悲しそうで、不安のほうが勝ってしまう。

「えっと、とりあえず家に行きましょう。私、先に行ってお茶を用意してきますね」
「すまんね、花音ちゃん。由紀は……日本酒とつまみ、よろしく。イカの塩辛が食べたいな……」
「お前、凹んでると図々しくなるよな」

 藤乃さんも瑞希に何か言ってるけど、走りだした私には聞こえなかった。


 家で仕事中だった母に声をかけて、一緒にリビングを片付けた。
 お茶を全員分用意したところで父達が追いついた。

「なに、うまくいかなかった?」

 席につくなり、父が笑いながら聞いた。

「いや……異動で担当が変わってさ、今までとまったく違うことを言い出されたんだ」
「……おお」

 瑞希が引きつった顔でお茶を飲む。
 藤乃さんが少し唇を尖らせた。

「これまでの担当の方とは、こまめに連絡を取って方向性のズレが出ないようにしてたんですけど……新しい方の好みに合わなかったみたいで、全部却下されてしまって」
「えっ、ええ……?全部、ですか?」

 須藤さんと藤乃さんは、そろって渋い顔で頷いた。
 父と兄も同じような顔をしている。
 ……どうしよう。苗はもう揃えてあるし、今から種をまいても間に合わない。

「とはいえ、急に方向転換されてもこっちも困る。それに、こっちから聞くまで何も言ってこなかったんだ」
「まあ、最悪はうちが撤退。お役所と揉めるのは避けたいですしね。いちばんいいのは、今の提案がそのまま通ること……です」

 藤乃さんは静かな声で言って、お茶のグラスを手でぎゅっと握っている。