翌朝は少し早めに起きて、洗濯物を片づけておいた。
花音ちゃんの服を持って部屋に行くと、寝ぼけた顔でこちらを見上げた。
ゆっくり体を起こして、ぼんやり部屋を見渡したあと、また俺に微笑みかける。
俺のシャツを着た花音ちゃんは、首元がゆるくて全体的にぶかぶかだから、いつも以上に細く見える。
「……おはようございます、藤乃さん」
喉を鳴らして、ゆっくり言葉を探す。
「おはよう、花音ちゃん。服は乾いたから、ここに置いておくね。洗面所は空いてるから、よかったら使って。朝ごはんはおにぎりだから、出るときに持たせるよ」
「えっ、あの、そこまでしてもらうなんて……! 洗濯までしてもらっちゃって……!」
「気にしなくていいよ。俺も由紀さんの家で、よくごはんをご馳走になってるし」
「そ、それは畑を手伝ったときだけです」
「気になるなら、今度花を頼むときに、ちょっとサービスしてくれたら嬉しいな。俺がいたら着替えにくいだろうし、先に外に出てるね。支度ができたら出ておいで」
寝起きの花音ちゃんがあまりにかわいくて、ずっと見てたら我慢の限界がきそうだった。だから、早口になって、その場を離れた。
でも、扉を開けたところで、つい振り返ってしまった。
「手は出さないって決めてるけど、出したくないわけじゃないんだ。だから、あんまり無防備に煽られると困る。花音ちゃん、かわいすぎて我慢がきついから」
それだけ言い残して、扉を閉めた。
完全に言い逃げだけど……昨夜の生殺しの返事、ってことにしておこう。俺なりに、優しさのつもりだ。
母親を助手席に乗せて、花市場へ向かった。花音ちゃんが由紀さんの家へ歩いていくのを見送りながら、俺は仕入れにまわる。
最後に由紀さんのところへ寄ると、瑞希がひらひらと手を振ってきた。
「よーお。悪いね、花音、泊めてもらって」
「いいよ。晩飯、作ってくれたから」
そう言うと、瑞希が顔を寄せてきた。
「花音がさ、手ぇ出されなかったって言ってたけど……マジ? お前、ついてないんじゃないの?」
「ついてるから、寝られなくて地獄だった」
「真顔じゃん、マジでウケる。お詫びに、余ってるセンニチコウやるわ」
「……ありがたくもらうけどさ。ドライフラワーにでもしようかな」
そんな話をしていたら、母親がやってきて、由紀さんの親父さんと話しながら花を選んでいた。俺も瑞希と相談しながらいくつか花を選んで、母親と一緒に台車を押して車へ戻った。
母親の運転する横で、おにぎりを食べながらスマホを見ると、花音ちゃんからメッセージが届いていた。
『昨晩はありがとうございました。これからもうっかり煽ってしまうことがあるかもしれませんが、そのときは無理に我慢しなくても大丈夫です。次は来週後半にうかがいます』
……ほんとさ、花音ちゃんは!
俺が、もたもたしてるから……情けないな、ほんと。
おにぎりを頬張りながら、スマホでカップル向けのデートスポットを検索する。
帰宅すると、昨日からガタピシ鳴っていた網戸が外れて傾いていた。まるで、格好悪くて傾いている今の俺みたいだ。
花音ちゃんの服を持って部屋に行くと、寝ぼけた顔でこちらを見上げた。
ゆっくり体を起こして、ぼんやり部屋を見渡したあと、また俺に微笑みかける。
俺のシャツを着た花音ちゃんは、首元がゆるくて全体的にぶかぶかだから、いつも以上に細く見える。
「……おはようございます、藤乃さん」
喉を鳴らして、ゆっくり言葉を探す。
「おはよう、花音ちゃん。服は乾いたから、ここに置いておくね。洗面所は空いてるから、よかったら使って。朝ごはんはおにぎりだから、出るときに持たせるよ」
「えっ、あの、そこまでしてもらうなんて……! 洗濯までしてもらっちゃって……!」
「気にしなくていいよ。俺も由紀さんの家で、よくごはんをご馳走になってるし」
「そ、それは畑を手伝ったときだけです」
「気になるなら、今度花を頼むときに、ちょっとサービスしてくれたら嬉しいな。俺がいたら着替えにくいだろうし、先に外に出てるね。支度ができたら出ておいで」
寝起きの花音ちゃんがあまりにかわいくて、ずっと見てたら我慢の限界がきそうだった。だから、早口になって、その場を離れた。
でも、扉を開けたところで、つい振り返ってしまった。
「手は出さないって決めてるけど、出したくないわけじゃないんだ。だから、あんまり無防備に煽られると困る。花音ちゃん、かわいすぎて我慢がきついから」
それだけ言い残して、扉を閉めた。
完全に言い逃げだけど……昨夜の生殺しの返事、ってことにしておこう。俺なりに、優しさのつもりだ。
母親を助手席に乗せて、花市場へ向かった。花音ちゃんが由紀さんの家へ歩いていくのを見送りながら、俺は仕入れにまわる。
最後に由紀さんのところへ寄ると、瑞希がひらひらと手を振ってきた。
「よーお。悪いね、花音、泊めてもらって」
「いいよ。晩飯、作ってくれたから」
そう言うと、瑞希が顔を寄せてきた。
「花音がさ、手ぇ出されなかったって言ってたけど……マジ? お前、ついてないんじゃないの?」
「ついてるから、寝られなくて地獄だった」
「真顔じゃん、マジでウケる。お詫びに、余ってるセンニチコウやるわ」
「……ありがたくもらうけどさ。ドライフラワーにでもしようかな」
そんな話をしていたら、母親がやってきて、由紀さんの親父さんと話しながら花を選んでいた。俺も瑞希と相談しながらいくつか花を選んで、母親と一緒に台車を押して車へ戻った。
母親の運転する横で、おにぎりを食べながらスマホを見ると、花音ちゃんからメッセージが届いていた。
『昨晩はありがとうございました。これからもうっかり煽ってしまうことがあるかもしれませんが、そのときは無理に我慢しなくても大丈夫です。次は来週後半にうかがいます』
……ほんとさ、花音ちゃんは!
俺が、もたもたしてるから……情けないな、ほんと。
おにぎりを頬張りながら、スマホでカップル向けのデートスポットを検索する。
帰宅すると、昨日からガタピシ鳴っていた網戸が外れて傾いていた。まるで、格好悪くて傾いている今の俺みたいだ。



