「ごめん、うるさかったよね」
「いえ、賑やかで楽しかったです。うちの母も強いほうですけど、藤乃さんのお母様はまた少し違う雰囲気ですね」
「そう?親父がああだからね。あーでも、ばあさんもあんな感じだったかな。たぶん、じいさんと親父の好みが一緒なんだ……」

 てことは、花音ちゃんも母親に似てるってことか?
 ……やばい、なんか妙な気づきをしてしまった。
 考えないようにして客間の扉を開ける。
 途端に雷がゴロゴロ鳴って、網戸が風でガタガタ音を立てた。
 ふと横を見ると、花音ちゃんが俺のシャツの裾をそっと掴んでいた。

「びっくりした?」
「……はい。いきなり音がするとちょっと」
「まだ時間あるし、もう少しだけ一緒にいてもいい?」
「お願いします」

 花音ちゃんを、客間……と呼んでいる玄関横の和室に通して、布団乾燥機を片付けた。扉は半分ほど開けたままにして、部屋にあった座布団に腰を下ろす。
 花音ちゃんも、おずおずと近くの座布団に腰を下ろしたけど、雷が鳴るたびに肩をぴくっと跳ねさせていた。

「……花音ちゃん、雷って苦手?」
「そ、そんなことは……えっと、いきなり音がするのが、ちょっと……」
「そっか。もう、秋の花って出てきてる?」
「へ? 秋の花ですか……? ……そうですね、ケイトウやクルクマがそろそろピークです。ヒマワリがもうすぐ終わりかなあ。あとガーデンマムを出荷に向けて調整中です。駅前の花壇に植えるようにビオラ、パンジーも温室で育苗中ですね。あとは……」

 花音ちゃんは、楽しそうに笑いながら花の話をしてくれた。
 よかった。雷から気が逸れたみたいだ。
 一時間くらい話していると、花音ちゃんの目が少し伏せてきた。

「花音ちゃん、眠い? 明日、市場に行くときに起こすから、そろそろ寝ようか」
「……はい。あ、でも……一個聞いていいですか?」
「なあに?」
「今日、手をつながなかったり、触れないようにしてたのって……藤乃さんのお家だから、ですか?」

 花音ちゃんは、ときどきこうやって、すごくストレートに聞いてくる。そういうところは瑞希と似てて、なんだか面白い。

「うーん。由紀さんが、俺と親のことを信用して花音ちゃんを泊まらせてくれたんだよね。そこで手を出すのは、その信用を裏切ることになる。俺たちの仕事って、そういう信頼が何より大事だからさ。人間性を疑われたら、それだけで取引がなくなる」