君に花を贈る

 花音ちゃんがくすくす笑いながら皿を出していたので、俺も台所に戻ってスプーンを出したり、冷蔵庫からレタスとかトマトを出して簡単にサラダを用意する。
 風呂から出てきた母親が、「いつもそれくらいやってくれたらいいのに」なんてぼやく。

「母さんが台所にいる間は親父がべったりくっついてて、俺の手伝いなんかいらないじゃん」
「それはそうね」
「親に向かってべったりとか言うんじゃねえよ」
「小春さん、私にべったりでしょう?」
「はい、べったりです……」

 呆れていると、隣にいた花音ちゃんが俺のシャツの袖を引いた。

「須藤さんのお家って、みなさん本当に仲がいいんですね」
「んー、ていうか、親父は母さんにベタ惚れだし、じいさんもばあさんが大好きでさ。小さいころからずっとそれ見せられてたから、そういうもんだって思ってたんだよね」

 そう言うと、花音ちゃんが小さく「あー……」と頷いた。

「……藤乃さんも、だからそういう人なんですね」
「え、なに、そういう……?」

 聞き返すと冷蔵庫から麦茶を出していた母親が笑い出した。

「あはは、そうね。藤乃はお父さんそっくりだから」
「なんだよ、それ」
「藤乃さんも、素で口説くというか、甘くなるというか……お父さんも、そうなんですか?」

 花音ちゃんが聞くと、母親が大きく頷いた。

「ええ、そうよ。すごいのよ、今でも二人きりになると言うのよ。“かわいい”“綺麗”“桐子さんより素敵な人はいない”って」
「親父……」
「藤乃さんも同じようなこと言ってるじゃないですか」
「そうだけど! しょうがないじゃん、花音ちゃんがかわいいんだから……」
「そうだそうだ!」

 親父がソファから起き上がってきた。

「綺麗だと思う相手に綺麗って言わないでどうすんだ! 世界一美しいです、桐子さん!」
「はいはい、小春さんはカレーにルウ入れて。藤乃は客間に布団出して、乾燥機かけてきて」
「「はい……」」
「花音ちゃんは、こっちでゆっくりしててね。ごめんなさいね、晩ごはん作らせちゃって」
「いえ、おじいさんと藤乃さんが一緒に作ってくれたので私は全然……」

 布団を用意して戻ると、親父がカレーをよそっていたので、皿を並べながら配膳を手伝った。
 花音ちゃんが「ありがとうございます」って微笑んでくれたもんだから、ついデレッとしてたら、向かいで両親がまったく同じやり取りをしていた。……やっぱり、血は争えないんだな……。
 全員で手を合わせて食べ始めたけど、俺は花音ちゃんばかり見てて、食べるのが遅くなり、怒られた。

「いいことを教えてやろう」

 先に食べ終えたじいさんが麦茶を飲みながら言った。

「結婚したばかりのころの小春……お前の親父も桐子さんばっかり見てて、飯が遅れては、しょっちゅうばあさんに怒られてた」
「それ、いいことかあ?」

 じいさんは笑いながら台所を出ていった。
 俺も急いで食べ終える。片付けは親父と母親に任せて、花音ちゃんを客間に連れて行く。