「……藤乃さん?」
「ん、なに?」

 気づいたら花音ちゃんが俺を見ていた。
 顔はゆるんだままで、正直どうしようもない。

「何か、いいことでもありましたか……?」
「あった。花音ちゃんが隣で料理してる」
「それ、いいことですか?」
「もちろんいいことだよ。幸せすぎて、破裂しそう」

 思わずそう言うと、花音ちゃんは不思議そうに首を傾げる。

「……そんなに……?でも、藤乃さんが洗い物をしてるの、いいですね。素敵な旦那さんになってくれそう」
「花音ちゃんが、どんな旦那さんがいいか教えてくれたら、頑張って近づくよ」
「それ……プロポーズですか?」
「プロポーズは、告白のあとに改めていたしますので、しばしお待ちください」

 かしこまってそう言うと花音ちゃんがニコッと微笑んだ。

「私がおばあちゃんになる前にお願いします」
「……告白については、今月中を目処に計画しておりますので」
「あ、そうなんですね?……楽しみにしてます」

 花音ちゃんが少し慌てた様子で鍋の中身をかき混ぜる。シンクの泡を流してから鍋に水を入れて蓋をする。
 振り返ると、じいさんは台所の机で新聞を読み、その向こうのリビングでは親父がソファに寝転がっていた。

「親父、いつの間に帰ってきたんだよ」

 覗き込むと、スマホでなんかのゲームをしている。

「お前らがいちゃついてる間に帰ってきたよ。ちなみに桐子さんは一通り爆笑してから風呂に行った」
「声かけろよ……」
「ヤダよ。なんで息子がいちゃついてるの邪魔しなきゃいけねえんだ」

 顔を上げもしない親父にじいさんが笑いながら声をかける。

「小春にそっくりじゃねえか」
「んなこと……なくもないな。やだなあ、もうちょっと桐子さんに似りゃよかったのに。なんでそんなに俺にそっくりになっちゃったんだよ、藤乃は」
「知らねーよ!」