女性は引きつった笑顔のまま、小さなトランクケースをカウンターに置いた。ケースを開けると、生花を加工したらしいピアスやネックレス、指輪がきれいに並んでいる。

「わ、かわいい!」
「このヒマワリ、私が持ってきたものですか?」

 顔を上げると、藤乃さんが静かにうなずいた。

「うん。そっちのトルコキキョウとかケイトウもそうだね。へー、こんな風になるんだ……」
「はい。どの花も元の色がすごく鮮やかできれいだったので、それを生かせるように頑張りました! ……もしかして、こちらの方は花農家さんですか?」

 女性が目を輝かせて、ぱっと私を見上げてきた。

「はい。由紀農園です。えっと、あ、これ、名刺です」
「ありがとうございます! 私のも、ぜひお納めください」

 差し出された名刺を受け取ると、「ボタニカルアクセサリー作家」と書かれていた。……どういう職業なのかは、まだちょっとピンとこないけれど。

「ハンドメイド系のイベントを中心に出店していて、小さいながら自分の店もやっています。通販もたまにですが出しています。実家暮らしなので、なんとかギリギリ食べていけるくらいです」
「へー」

 正直、それがすごいことなのかはわからない。でも、自分で作ったもので暮らしているのは、きっとうちと同じだと思う。違うかもしれないけれど。

「色はどれもきれいですね。でも耐久性ってどうですか?」
「それは課題有りです。半年はいけますけど、なかなか……」
「あと、ちょっと重いかな。一日つけてると、耳痛くなりそう」
「そうなんですよね。生花にこだわるとそうなっちゃって……今は晴れの日用の特別なアクセサリーということで売り出してるので、そこまでその辺りへの言及はないんですけど……」

 葵さんが次々と質問して、女性は少し戸惑いながら答えていた。
 私は、並べられたアクセサリーの中から、藤の花が連なったようなピアスをそっと手に取った。
 華奢なデザインで、ゆらゆら揺れる藤の花がかわいらしい。
 横から手が伸びてきて、ピアスの金具を優しく摘まんだ。そのまま私の耳元にそっと添えられる。

「似合うよ」

 藤乃さんがふわりと微笑んだ。

「……そ、そうですか?」
「うん。こっちのケイトウもいいかも。花音ちゃんには、少し大きめのアクセサリーがよく映えると思う」

 ニコニコしながら藤乃さんはあれこれ私に当てていく。
 ……たぶん、牽制とかじゃなくて、純粋に思ったことを口にしてるんだろうな、この人は。
 女性と葵さんの視線が痛い。

「藤乃さん」
「なあに?」
「そういうところ、好きです」
「えっ、何、いきなり……?」

 藤乃さんが真っ赤になって黙り込んだ。
 葵さんは吹き出し、女性は唇をきゅっと結んで、目を細めた。

「はいはい、ごちそうさまでした。このためにこの方を呼んだの、須藤くん? 性格悪くない?」
「君に言われたくない」

 藤乃さんがすぐに言い返すと、女性は気まずそうに口をつぐんだ。