週末の土曜日。今日は私服で、花屋さんへ向かった。お客さんの少ない昼時にと言われていたので、それくらいに行くと、藤乃さんがカウンターで作業していて、その奥では葵さんがお弁当を食べていた。

「こんにちは、花音ちゃん。ありがとう、来てくれて。今日もかわいいね」
「……こんにちは。変じゃないですか?」

 牽制ということもあって、少し気合いを入れて、黒のロングタイトスカートに白いノースリーブのサマーニットを合わせてきた。……最近は、藤乃さんとのデートに備えて、少しずつそういう服を増やしている。
 母が「イイと思う!」とお小遣いを出してくれるから、つい買いすぎてしまう。

「変じゃないよ。今日はスマートでかっこいいと思います。花音ちゃんは背が高いから、そういう細身の服を着るとかっこよくてとても素敵です」
「そ、そうですか……えへへ……」
「……私もいるんだけどな」

 げんなりした顔の葵さんが呟いて我に返った。
 葵さんは「藤乃くんにも、女の子を褒める機能があったんだね」なんて言いながら水筒を傾けている。
 ちょうどそのとき、後ろから声が聞こえた。

「お邪魔しまーす。須藤くん、いますか?」

 振り向くと、小柄な女性がニコッとかわいらしく微笑んでいた。
 直感的に、「あ、藤乃さんが苦手なタイプかも……」なんて、図々しくも思ってしまった。なんていうか……少し、鈴美さんに似ている。
 案の定というかなんというか、藤乃さんはこわばった顔で小さく頷いた。

「はい、いらっしゃい。えっと、アクセサリーの試作品だよね」
「うん。男性でも使えるようなものも持ってきたの。見てもらえたら嬉しいな。あ、でも、お客さんが先でいいからね」

 女性がチラリと私を見上げる。
 なるほど?
 私はにっこりと微笑んだ。
 私の顔は瑞希に似ている。瑞希はよく怒る前にニコッと笑う。
 怒っているわけじゃないけれど、背が高いぶん、笑顔にもそれなりの圧があるのは自覚している。だから、今日はちょっとその効果を借りさせてもらう。

「この子は、俺が呼んだんだ。アクセサリーのこと、俺じゃよくわからないから」
「私にも見せて」

 女性が返事をする前に葵さんがカウンターから出てきた。
 藤乃さんの前、私の隣に並んでエプロンを締め直している。

「藤乃くんのお花を使ってるんでしょ? だったら私にも見せてほしいな」

 正直に言って、本気で怖かった。
 あっ、美女が怒ると、こんなに怖いんだ! 私なんかがイラついて、ほんとすみませんでした……! って、謝りたくなるくらいには。
 女性も、少し引いたような表情を浮かべていた。

「えっと……はい。たくさんの方に見ていただけると嬉しいので、ぜひ、お願いします!」