君に花を贈る

 片付けを終えて瑞希と食堂へ向かうと、藤乃さんが入り口で待っていた。

「お待たせしました」
「花音ちゃんのためなら、一日でも一年でも待つよ。あ、席取りはお義兄さんお願いします」
「ウゼえ義弟だなあ……」

 瑞希はあからさまに嫌な顔をして、それでも席を取りに行ってくれた。
 藤乃さんと二人で、三人分の朝ごはんを買って瑞希のところへ向かう。

「えっと……何て言えばいいかな。さっき話したとおり、大学のときの知り合いがアクセサリーの試作品を持ってくるから、それに感想がほしくて。俺にはよくわかんないし」
「はあ、それは構いませんが」

 藤乃さんは煮魚を箸でほぐしながら、視線を泳がせた。
 しばらく言い淀んでから、「それでね、」と続ける。

「その、持ってくる知り合いが……なんていうか、俺に気があるっぽいというか」
「元カノ、ですか?」
「花音さあ……言い方があるだろうが」

 瑞希が呆れたように口を挟む。藤乃さんはすごい勢いで首を横に振った。

「それは絶対にない。断じて違う。俺、ちゃんと断ってたし。……その、大学のときに俺と葵が付き合ってるとか言われてさ、タイミングも悪くて……思わずキレちゃったんだよね」
「はあ……」
「まあ、それはいいとして。一応、最低限の挨拶を交わすくらいの関係だったんだけど、卒業後にうちから花を仕入れるようになってさ。で、今もちょっとだけ話すことはあるんだけど……正直、苦手で。自意識過剰かもしれないけど、俺には花音ちゃんがいるから、距離を置いてほしいって、伝えたいんだ」

 ゴニョゴニョ言って、藤乃さんは小さくなってしまった。

「まあ、いいですよ」
「えっ、いいの!?」
「その代わりに、交換条件があります。私、ピアス開けてないので、藤乃さんに開けてほしいんです」
「重っ!!」

 突っ込んできた瑞希を睨んで黙らせた。
 藤乃さんはポカンと目を丸くする。

「俺は別にいいけど……痛くないの?」
「多少は痛いと思いますけど、大丈夫です。ピアッサーは私が用意します。その方、いつ来るんですか?」
「今週末って言ってた」
「わかりました。じゃあ、明後日ちょっと遅めに伺うので、閉店後にお願いします」
「う、うん」

 藤乃さんが頷いたのを見て、ようやくごはんに手をつけた。
 食べ終えたら二人が話していたので、その隙にスマホでピアッサーを検索する。

「藤乃さん、この中で、私に似合うのってどの色だと思います?」
「んー、その中なら、ピンクか明るい紫かな」
「わかりました。じゃあ、紫のほうが藤乃さんっぽいから、これにします。ファーストピアス」
「うちの妹、重くて怖ぇ……」
「うるさいな、瑞希。牽制でしょ? 全力でやりますけど」
「……ねえ、なんでお前ら、付き合ってないの?」

 瑞希の言葉は聞こえないふりをして、トレーを片付けに向かう。
 ……そんなの、私がいちばん知りたいよ!