「開いてないです」
「そっか。大学のときのクラスメイトが、花とか草を使ったアクセサリーを作っててね。うちの花を提供したから、試作を持ってくるって言ってて。でも、俺はアクセサリーのことわかんないし、花音ちゃんが使えそうならと思って」
「あ、それ、あれ? お前がブチ切れてた女子」

 瑞希が片付けながら、苦笑いしている。藤乃さんが怒ることなんてあるんだ……しかも、女の子に。

「よく覚えてるね。まあ、そうなんだけど。俺も大人になったし、向こうも引いたから、今は仕事だけの付き合いって感じ」
「それって、牽制で花音呼ぼうとしてる? まあ、俺はいいけどさ、花音にはちゃんと説明しとけよ」
「……うん。ごめん。俺が、ちょっとずるかった」

 藤乃さんが肩を落とした。そして花を抱えたまま、まっすぐ私に向き合う。

「片付けたら、一緒に朝ごはんどう? 瑞希も。そこで、少し話させて」
「はあ、構いませんが」
「煮魚定食、大盛りで。デザートもつけて」

 瑞希がすかさず口を挟む。藤乃さんはニヤッと笑って答えた。

「デザートは自腹な」
「妹のレンタル代だろ」
「それなら、花音ちゃんにデザートつけるよ」
「まあ、それでもいいか。花音も、何食いたいか考えとけよ。できれば高いやつで」
「高くてもいいけど、一口でも食べたら、俺の頼み事、聞いてもらうからな」
「聞くのは花音だから」
「すみません、藤乃さん。うちの兄、図々しくて」
「知ってるよ。いざってときには頼りにしてるから、お義兄さん」

 藤乃さんはニコッと笑って、「じゃあ、後で食堂でね」と言って花を抱えて行ってしまった。

「デザートくらいもらっとかないと割に合わないんだよな、藤乃の持ち込む厄介ごとって」

 瑞希はぼやきながら、片付けを続ける。