男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


「ヴィオーラは戦で夫と子供を同時に亡くしていてな」
「え……」

 彼女に家族がいたことを、私はこのとき初めて知った。
 お世話になっている間、ひとりで宿を経営している逞しい女性だと思っていたけれど。

「だからか、彼女は俺を本当の息子のように育ててくれた。俺にとっては、はじめて出来た家族のような存在だ」

 ふたりのやり取りを思い出す。
 確かにふたりの間にはそんなあたたかい雰囲気があった。

 ――でも。
 あまりにラディスの子供時代が壮絶過ぎて、言葉が出てこなかった。
 訊いてはいけなかったかもしれない……そう罪悪感すら覚えていると。

「そんな顔をするな」
「……」

 そうして頭を撫でられた。

「俺がこれまで生きてこられたのは、お前のお陰なんだぞ」
「え?」

 どういう意味だろう。
 目を瞬いていると、ラディスは優しげにそのグリーンの瞳を細めた。

「お前のことを夢に見たのは二年前だけじゃない。俺はそれよりずっと前から、藤花のことを夢に見ていた」