男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


「素晴らしい世界?」
「前に話していただろう。この世界より色々なものが便利だと」

 確か、キアノス副長に元いた世界はどんな世界かと訊かれたときだ。

「言ったけど……」
「戻らなくていいのか。この世界は何かと不便だろう」

 その不機嫌そうな顔を見て、やっと気付いた。

(もしかしてラディス、拗ねてる?)

 そう思ったら急に可笑しさと愛おしさが込み上げて、つい顔がにやけてしまった。

「何を笑っている」
「いや、ごめん。……でも、本当にもういいんだ」

 どんどん過ぎていく穏やかな風景を見ながら言う。

「オレはこの世界で生きることにしたから」
「なぜ」

 私はそのまま前に向き直る。
 ……面と向かっては、恥ずかしかったから。

「だって、この世界にはラディスがいるし」
「!」

 彼が驚いたのが伝わってきて、してやったりとちょっといい気分になっていると。

「……今そういうことを言うな」

 そんな切羽詰まったような低い声が聞こえてきた。

「え?」
「抱きしめたくなるだろう」

 ぎょっとして振り返る。

「や、やめろよ!?」
「当たり前だ。……宿に着いたら覚えていろ」

 その熱を帯びた瞳を見て、私は自分の言った恥ずかしい台詞をすこぶる後悔したのだった。