男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


 空が大分明るくなってきた。
 長かった夜が漸く明けるのだ。
 イェラーキの軽快な蹄の音を聞きながら、私は後ろのラディスに声を掛ける。

「ありがとう、ラディス」

 すると素っ気ない声が返ってきた。

「何がだ」
「あの村を守ってくれたんだろ? でも、さっきの髪は?」
「……お前たちと離れた後、空から降ってきた」
「え!?」

 私が驚くと、ラディスは溜息交じりに続けた。

「『藤花はあなたに任せる。絶対に守って』という声と共にな」

(フェリーツィア……)

 その声を聞いたわけではないけれど、きっと彼女だ。
 フェリーツィア。私と同じ、日本人の血を引いた女の子。
 出会い方は最悪だったけれど、怒ったり、泣いたり、忙しい子だった。

(時間があったら、もっと話したかったかもな)

 ラディスの更に向こう、遠ざかっていく緑を振り返りながらそんなことを考えていると。

「本当にいいのか?」
「え?」

 ラディスの、森と同じ深いグリーンが私を見下ろしていた。

「異世界に戻る方法が知りたかったんじゃないのか」
「!」

 やっぱり、そのあたりの会話も聞かれていたみたいだ。
 私は前に向き直って答える。

「言っただろ。もういいんだ」
「だが……お前のいた世界は随分と素晴らしい世界のようじゃないか」
「え?」

 見上げると、ラディスはなんだか小難しい顔をしていた。