男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


 ふたりを縛っていた縄が床に落ちて、私は立ち上がった。

「ごめん、あとでちゃんと話すから。とりあえず今はこの村から出よう。先輩たちもきっと心配してるだろうし」

 解放したふたりと共にその狭い物置部屋を出る。すると。

「藤花……」

 案の定、私たちは取り囲まれていた。
 姉妹は悲しそうな顔で、フヌーディは怒りの表情で。

「藤花、おばば様の本を見たかったんじゃないの?」

 そう言ったフェリーツィアに私は謝る。

「ごめん、フェリーツィア。でも、もういいんだ」
「なんで!」

 ――例え、帰る方法がわかったとしても。

「もう手遅れなんだ」

 前の聖女であるサクラさんと多分同じ。
 私も、この世界の騎士に恋をしてしまった。

 ラディスのことが好きになってしまった。

 それに、この世界で出逢った大切な友人がいる。
 仲間たちがいる。

 だからもう、私はこの世界から離れられない。
 離れたくない。

 だから。

「この世界の、私の居場所に戻るよ」

 そんな私の言葉に彼女はまた泣き出しそうな顔をした。

「……やっぱり騎士団に戻るつもりか」

 そう低く言ったのはフヌーディだ。

「ああ」

 しっかりと頷く。
 すると彼は私を、いや、私の傍らを恨みのこもった目で睨みつけた。