男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


 彼女の形のいい唇がにんまりと弧を描くのを見て、次の瞬間私の視界は暗幕が掛かったように闇に閉ざされた。
 月明かりも届かない、それは先ほど蠢いていた闇と同じものだ。

(ラディス……!)

 それに飲み込まれるようにして、私の意識はそこで途切れた。





 ――私は闇の中にいた。

(……ここは?)

 まだ魔女の森の中だろうか。
 何も見えない。
 誰も、いない。

「ラディス?」

 小さくその名を呼ぶ。
 しかし、返事はない。

「誰も、いないのか……?」

 言いしれぬ不安の中ゆっくりと足を進めていくと、前方に漸くぼんやりと人影らしきものが見えてきた。

(誰だ……?)

 慎重に近づいていくと、見慣れた赤毛に気付いて私は声を上げ駆け寄った。

「イリアス! 無事だったのか!」
「……」

 しかし、こちらを振り返った彼は酷く冷めた目をしていた。

「イリアス……?」