性、喰らう夢




 夢を見たのはいつぶりだろうか。



 団地の片隅にある、今よりも少しだけ埃のにおいが少ない私の家で、母親が夜中お酒を飲んでいる。

 私は母親を刺激しないように、物音を立てずに生活していく。

 ああ、そうだったか。私が未だに、家でひとりでいるときでも足音を立てずに過ごしてしまうのは、幼い頃からの癖だったのか。


 先に床に就こうとする私を見て、母親が片手に持っていた酎ハイの缶を、テーブルに叩きつける。母親が、こちらにやってくる。


 彼女が何を言っているのかがわからない。呂律のまわっていない口調で何かを言っている。けれどその口ぶりから、私を罵っていることだけは、はっきりと理解できる。

 彼女が手を上げるので、私は両腕で頭を守る。ごめんなさい、と何度も謝罪の言葉を発しながら、母親が落ち着きを取り戻すまで、時間が過ぎるのをひたすらに待つ。



 そんな、幼い頃の夢を見た。

 結局、私は幼少期の呪縛に今でも囚われているらしい。音を立てずに生活する癖も、ただ黙って暴力を受け入れてしまうところも、何かにつけて無力感を抱いてしまうところも、この頃からちっとも変っていない。

 子どもにとっては、与えられた環境と言うものが生活の全てになる。私はその時の苦しさを心のどこかで感じながら、身体だけが成長してしまったのだ。


 何だか、色々なところが痛い。