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綾人くんの部屋の前に到着してから、自分が依央のジャージを着たままだということに気付いて、彼の部屋のインターフォンを押すのをためらった。
今から引き返して、家に帰って着替えようかと思ったが、そうすると今から30分以上時間がかかってしまう。そうすれば彼はきっとさらに不機嫌になる気がする。
どうしようか少し悩んでから、私はこのまま彼の部屋に入ることを決めて、そっとインターフォンを押した。
数秒経って、重厚なドアがこちら側にギイ、と開かれた。制服を着た綾人くんが、私のことを出迎える。
「……」
彼はその場で私の全身をじっとりと見つめたまま、何も言わなかった。大きいサイズのジャージを着ている私に対して何か思うことがあるのかもしれないが、私はお邪魔します、とだけ言って、綾人くんに促される前に洗面台の方に向かった。
袖を捲って、手を洗う私の後ろにぴったりとくっついてきた綾人くんが何を考えているか一向にわからなくて、私は彼の顔を見ないようにしながら、手に冷たい水を触れさせた。
すると彼は、私の身体に後ろから手を回してくる。腰回りに触れられた手がくすぐったく感じて、私は身体をこわばらせた。
「お前、また痩せた?」
綾人くんの口から発せられたのはそんな言葉だった。てっきり、ジャージのことに言及されるかと思っていた私は、思わず上ずった声を上げてしまう。
「あ、えと、そうかな……」
「……」
綾人くんはまた黙り込んでしまった。


