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夏目先輩から起こされることなく目覚めたのは初めてだった。
暖かいブランケットにくるまりながら、ジャージのポケットに入れているスマホが震えながら音を立てているのに気付いて目を開けたとき、デスクに向かってペンを握っていた夏目先輩が怪訝そうな顔をしたのを覚えている。
「出なよ。電話」
先輩は私が目覚めたのに気付いて、そう促した。私は寝ぼけ眼で上体を起こしながら、スマホを手に取った。
画面には、綾人くんの名前が浮かび上がっている。私は夏目先輩の方をちらりと見てから、綾人くんからの電話に出た。
「……もしもし」
『お前、いまどこ?』
「学校にいる」
夏目先輩は私の様子など気にも留めずに、そのまま作業を続けている。
『帰り、そのままアパート来て。よろしく』
それだけが伝えられて、電話が切れる。彼はいつもこうだ。私が何か言う前に、自分の用件が済めば彼は電話を切ってしまうのだ。
通話が途絶えたスマホを片手にぼうっとしていると、それを見かねた夏目先輩がペンをデスクの上に置いて、腕を組んだ。
「誰? 男?」
「……」
黙る私を見て、夏目先輩はそれを肯定と解釈したようだった。
「良いよ。行っておいで。どうせ止めたって、きみは行っちゃうんだろう?」
先輩は立ち上がって、ブランケットを私からはぎ取った。


