「その、先輩のこと疑ってるわけじゃないんです。ただ、もし何か知ってたらって、思って」
必死になってそう付け加えるも、先輩は表情ひとつ変えることなく、じっと私の様子を見つめている。そして少しだけ沈黙が流れたあとに、先輩はゆっくりとその唇を動かし始めた。
「へえ、まさかきみがそんなことを聞いてくるなんてねえ」
「……」
「まあ、ひとつ誤解があるかな。僕とマナは、誰かが噂をするような甘ったるい関係にあるわけじゃないよ。マナなんて多分、僕のこと殺したいくらいに嫌いだろうしね」
どういうことですか、と先輩に尋ねると、先輩は、別に君に話すほどのことじゃないよ、と言ってその視線を宙に漂わせた。
「私、夏目先輩のこと、信じて良いんですよね? 前言ってたみたいに、祥平と仲良くしてるから、私は嫌がらせに遭っているんですよね?」
そう言って夏目先輩の方を見る。彼は椅子から立ち上がって、ソファーのところにやってきた。私の隣に腰を掛けて、私の手に自分の手を重ねながら、彼はうっすらと笑った。
「きみって、本当に可愛いよね。一つ言うならば、きみが僕のものになってくれるなら、いじめはきっとなくなるだろうね」
眠りながらゆっくり頭を整理させたら良いさ、と言って、先輩は私の肩を抱いて、私をソファーへと横たわらせた。
先輩は、自分にかけられた疑いを否定してくれなかった。むしろ、脅しのような言葉だけを私に残して、彼はブランケットを優しく私の身体にふわりとかけた。


