須藤さんはどこか遠くを眺めながら、依央に向かって言った。
「あたしはその子に何もしてないよ。全部、あの子たちが勝手にやったんでしょう?」
「馬鹿言うなよ。あいつらを扇動したのはお前だろ」
「さあ? 詳しいことは、あたしの口からは言えないなあ」
須藤さんはへらへらと笑って見せる。依央に対して怯むこともなく、それでいてどこか達観したような素振りを見せてくる。
「何でこいつにあんなことするわけ? お前が祥平の元カノだからってこと?」
「イオ、それ誰から聞いたの? 内田?」
「……」
へえ、内田が訳のわかんないことゲロったんだ、
そう言って、須藤さんは唇の端を持ち上げた。
そうなんだ、と思った。須藤さんが祥平の元カノだなんて、知らなかった。そもそも、祥平はそういった類の話をしてこないし、私も今まで興味もなかった。
「おおかた、私がこの子を僻んで、この子をいじめた、ってことになっているんだろうね。あたしもその子に、そう説明したし」
「違うのかよ」
「大事になったら困るから、誤解のないように言っておくけど、あたし、別にもう祥平のことなんてこれっぽっちも好きじゃないんだよね」
何を言ってるのだろうか、と疑問に思うが、間髪を入れる隙はなかった。彼女はそのまま口を動かし続けている。
「祥平って、センスないのよ。あたしを捨ててこんな子のこと好きになっちゃうくらいだもの。だから正直言うと、あたし、その子のことなんてどうでも良いんだ」
須藤さんは、いまいち要領の得ないことを言う。
彼女が、祥平の元恋人、ということは本当らしいけれど、結局、彼女たちの真意は何なのだろうか。


